【心拍トレーニングと運動強度】ランニングのパフォーマンスUPに必要なこととは?

ランナー人口の増加、レースの多様性と共に、ランニングに関するノウハウも徐々に一般化されてきています。単に健康のために走るというだけでなく、いかに速く走るかを競うために、高強度のトレーニングを実施しているケースも多々見受けられるようになってきました。

同時に、ランナーを取り巻く科学技術も進化し続けています。

中でも、ランニング中に心拍数を計測することは当たり前とまでは行かないまでも、多くのランナーが実践しています。

数年前までは胸部に心拍ベルトを装着し、GPSウォッチでランニング中の心拍数をモニタリングするのが一般的でした。ですが、今では時計内に光学心拍計というセンサーが搭載されているGPSウォッチも多数リリースされ、いわゆる心拍トレーニングを簡易的に実施できるようになってきました。

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そして、特に上級者を中心に心拍トレーニングを実施しているランナーも少なからず存在します。上級者やレースに参加しない、ダイエットや健康の保持増進を目的としたランナーでも、効率的なランニングをする場合は心拍数を管理しながら走る必要があります。

とは言うものの、ランニング中に心拍数を計測していたとしても、「計測しているだけ」の状態になっている人がほとんどなのではないでしょうか?

そこで今回はこれから心拍トレーニングを初めたい!という人も含めて「心拍トレーニング」についてご紹介していきます。

ランニングにおける心拍トレーニングとは?

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では、そもそも心拍トレーニングとは、どんなトレーニングなのでしょうか?

ランニング中に心拍数を計測していれば心拍トレーニングなのか?というと、そうではありません。大事なのは何の目的を果たすために心拍数を計測しながらトレーニングをするのか?ということです。

フルマラソンでサブ4、サブ3を達成するなど「今より速く走るため」なのかもしれません。今より5kg痩せるために、効率良く走ることが目的なのかもしれません。より楽に走れるような心拍数を把握するためなのかもしれません。

つまり、心拍トレーニングはただ単に心拍数を計測しながら走ることでもありませんし、ランニングの目的によってターゲットとなる心拍数が異なることを意味します。

なので、フルマラソンを速く走りたいという人が毎回高い心拍数で走れば良いのかというと、決してそうではないということです。これくらいの心拍を維持しながら走ればいいよ!という絶対数のようなものがあるわけでもありません。

個々で目的を果たすためのターゲット心拍数は異なります。

なぜ心拍トレーニングが必要なのか?

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では、なぜ心拍トレーニングが必要なのでしょうか?

前述したように、個々が掲げる何らかの目的を果たすための1つの手法であることは間違いありません。

人によっては、「心拍数なんて計測しなくても、ペースを把握すれば問題ないだろう」と思っている方もいるかもしれません。

確かに、ランナーにとって一番身近な数値的指標は「ペース」です。1㎞あたりをどれくらいの時間で走れたか?を把握すればいいだろうと考えるわけです。

フルマラソンでサブ4を達成するにはイーブンペースで約5分40秒/㎞、サブ3なら約4分15秒/㎞となるので、これらのペースを意識してトレーニングすればいいだろうと。

ですが、ペースだけを意識していても効率の良いトレーニングを積むことができません。

というのは、人によって同じサブ4ペースでも、走っている際の疲労度が違うからです。

つまり、ペースを意識するだけでは、その時の「運動強度」が把握できません。Aさんの5分40秒/㎞とBさんの5分40秒/㎞は同じペースですが、運動強度は異なります。Aさんには楽なペースかもしれませんが、Bさんにとってはかなり速いペースかもしれません。実際のところどうなのかは心拍数を計測し、運動強度を把握する必要があります。

なので、ランニング中の運動強度をコントロールしながら実施できる「心拍トレーニング」が特に練習やトレーニング時には重要だということです。

※心拍数を計測するメリットは練習やトレーニング時だけはありません。心拍数を普段から計測しておくと、体調の管理ができるようになります。特にトレーニング効果が現れてくると、安静時の心拍数が低くなります。逆に疲れが溜まっていると、安静時の心拍数も高く出る傾向にあります。

そして、心拍トレーニングの効果が出てくると、同じ強度の練習でも心拍が低い状態でトレーニングができるようになるわけです。

心拍トレーニングを実施する際の運動強度

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では、実際に心拍トレーニングを実施する場合、具体的に運動強度をどのように設定すれば良いのでしょうか?

例えば、脂肪燃焼を狙ってトレーニングをする場合は最大心拍の65〜80%程度で実施しましょう、最大酸素摂取量を向上させたいのであれば最大心拍レベルで走りましょう、というようにトレーニングの目的によって運動強度が異なります。

簡便で分かりやすい指標を示すのであれば、GPSウォッチの各メーカーで心拍ゾーンが表記されているはずなので、そちらを参考にしてみて下さい。

心拍ゾーンとは、基本的にその人の最大心拍数を基準(100)として、いくつかの運動強度(ゾーン)に分けたものを指します。多くの場合、5つの心拍ゾーンに分かれ、GPSウォッチを使用すると、1回のランニング中に自分がどの心拍ゾーンで時間を過ごしていたのかが分かります。


※ガーミンのGPSウォッチを使って、ランニング後にどの心拍ゾーンで走っていたのかを確認できる。

このグラフでは2時間ちょっとランニングで、主にゾーン4で走っていることが分かります。Z1は最も低い心拍ゾーンで、逆にゾーン5は最も高い心拍ゾーンです。この場合の心拍ゾーンとその効果を記しておくと、

■ゾーン1→最大心拍数の50%〜60%の運動強度
トレーニングの目的や効果:ウォームアップやクーリングダウン。

■ゾーン2→最大心拍数の60%〜70%の運動強度
トレーニングの目的や効果:ランニングの基礎づくり。LSDなどによる脂肪燃焼効果

■ゾーン3→最大心拍数の70%〜80%の運動強度
トレーニングの目的や効果:ペース走など、有酸素能力の向上。

■ゾーン4→最大心拍数の80%〜90%の運動強度
トレーニングの目的や効果:インターバルトレーニングや閾値走など、無酸素性能力や乳酸への耐性を向上させる。

■ゾーン5→最大心拍数の90〜100%の運動強度
トレーニング効果:インターバルやレペティショントレーニングなど、最大酸素摂取量の向上や筋力強化。

心拍ゾーンが違うと、運動強度もトレーニング効果も変わってきます。目的に応じて、トレーニング内容(運動強度)を変化させていきましょう。

心拍ゾーンを考える場合は、最大心拍数と安静時心拍数を知る必要があります。

最大心拍数はどうやって知ることができるのかというと、概算値としては220から自分の年齢を引いた値などの求め方があります。

ですが、しっかりとトレーニングを実践している人であれば、特に高強度で行った練習(短い距離のタイムトライアルやインターバル走など)時の心拍を元に最大心拍数を決めると良いでしょう。

目標とする心拍数を決めたら、運動強度は下記の式で求めることができます。

目標心拍数=(220-年齢−安静時心拍数)×運動強度+安静時心拍数

例えば、30歳、安静時心拍数が60bpmの人が、有酸素能力の向上を目的に70%の運動強度でトレーニングをしようと考えた時に、

目標心拍数は(220-30-60)×0.7+60=151bpmということになります。

151bpmを絶えずキープすることは不可能なので、目安として捉えておくと良いでしょう。

心拍トレーニングや心拍ゾーンに関する詳しい解説はGARMINで心拍トレーニングの精度を上げる方法に記載しましたので、参考にしてみてください。

具体的なGPSウォッチ上での心拍ゾーンの設定方法も紹介しています。

その他、マラソンに関する具体的な練習・トレーニング方法に関しては、マラソンに必要な練習・トレーニング方法【最新版】にも記載しましたので、参考にしてみて下さい。

心拍トレーニングをパフォーマンスに繋げるためには?

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前述したように、ターゲットとする心拍数は目的によって異なります。ですが、心拍トレーニングをランニングのパフォーマンスに繋げるためには、単に最大心拍数の◯%でトレーニングを実施する、というだけでは不十分です。

なぜなら、ターゲットとなる心拍数でトレーニングを実施しただけでは、実際にパフォーマンスが向上したかどうかの判断が難しいからです。

なので、ターゲットとなる心拍範囲でトレーニング内容を実施することと同時に、トレーニングの「効果測定」をしていくことが大切です。

つまりトレーニングのデータを積み上げ、変化を「見える化」していく必要があります。

実際のトレーニングと効果測定をセットで行うことで、トレーニングが上手くいっている場合は、同じスピードで走っていても、心拍が低く表示されます。同様に同じ心拍数で走っていたとしても、トレーニングの効果が出ていればスピードが速くなっているはずです。

その際に活用できる指標が乳酸生作業閾値(LT)です。

※乳酸性作業閾値(LT)に関する詳細は乳酸性作業閾値(LT)を様々な切り口から考察したら、こうなった!の中に書いていますので、ご覧ください。

乳酸性作業閾値は実際に計測する場合は、研究機関での採血を伴う運動が必要です。予測値としては特定のGPSウォッチでも計測できるようになってきましたので、活用するのも一つの手です。

※この記事を書いている時点ではGARMINのForeAthlete 630J、735XTJ、935、fenix 3J、fenix5シリーズでLTが計測(予測)できます。その際、心拍ベルトが必要なこともお忘れなく。

ではなぜ、LTが心拍トレーニングの効果測定の指標となるのでしょうか?

ランニングのパフォーマンスを決定付ける指標として、最大酸素摂取量(VO2Max)、乳酸性作業閾値(LT)、ランニングエコノミーの3つがあることは有名です。

LTに注目して考えてみると、体内に乳酸を蓄積しにくい人ほどランニングのパフォーマンスが高いということです。簡単に言うと。

ちなみに、LTは適切なトレーニングを積むことで改善します。

つまり、心拍トレーニングによってLTが改善されれば理論上はランニングのパフォーマンスは上がるということです。

その際、LT値の心拍数とペースをモニタリングしていきます。

LT時のペース、心拍数がセットで分かるというのがポイントです。

仮にLTを計測した際のLTペースが5分/km、心拍数が165bpmだったとしましょう。

これらの数値がトレーニングによって、仮に4分50秒/km、心拍165bpmに変化したとしたら、パフォーマンスが上がったことが理解できます。

同じ心拍数でスピードが上っているので、速くなったことが理解できますよね。

このように、スピードや心拍数などの因果関係を見ながら効果測定を行い、適切なトレーニング計画を立てることができるようになります。

まとめ

今回の記事は「心拍トレーニング」をテーマにご紹介してきました。

ランニング中の運動強度を把握したり、コントロールするためにはペースだけではなく、心拍数の計測が鍵を握ります。

とは言うものの、心拍トレーニングを実施するには「心拍計」が必要不可欠です。

心拍計測はほとんどの場合、ランニングウォッチ(GPSウォッチ)にて計測が可能です。時間やペースなどと一緒に心拍数を確認しながら走ることができます。

今ではGPSウォッチ内に光学心拍計が搭載されているものが多くなってきました。以前は胸部に心拍ベルトの装着が必要でしたが、現在は手軽にランニング中の心拍数を計測することが可能です。

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とは言うものの、心拍トレーニングや心拍計測は万能というわけではありません。つまり、心拍トレーニングがあなたのランニングに関する悩みを全て解決してくれるというわけではないということです。

当然のことながら、ランニングにおける心拍トレーニング、心拍計測の限界はあります。

合わせて、【心拍トレーニングの限界】心拍に影響を与える7つの要因ランナーが心拍数だけで運動強度を判断するのは限界がある!をご覧いただけると、その意味が理解できるはずです。

心拍計測は意味がないというわけではなく、様々な側面を理解した上で、実践するといいでしょう。

まずは運動強度を知るための手段として、ランニング中に心拍数を計測しながら、心拍トレーニングを取り入れてみてはいかがでしょうか?