ランニング用パワーメーターStrydでパフォーマンスは変わるのか?
近年、専門施設や研究機関で計測をしなくても、自分自身のランニングパフォーマンスを定量的に評価できるようなデバイスが増えてきました。
GPSウォッチと心拍計(最近ではGPSウォッチで脈拍を計測できる光学心拍計が一般的になってきた)を使えば、ランニング中のパフォーマンスを評価することが可能です。GPSウォッチが日本で普及し始めたのが2012年頃。そして2017年から次の波がやって来ました。
RUN with POWERの著者、JIM VANCEはランニング中のパワーを計測することがランナーのパフォーマンス、特にランニングエコノミーの改善に役立つと著書の中で話しています。
アメリカでは既にランニング中のパワーを計測する「パワーメーター」を利用するランナーが増えてきています。
アメリカで起きていることは、数年遅れて日本でも起きるわけなので、ぜひ今の段階で情報をキャッチアップしておきましょう。
※事実、2019年頃からポラールやカロスといったGPSウォッチにもランニングパワーを計測できる機能が実装され始めました。
そんな中、今回ご紹介するのはStrydというランニングパワーメーターです。
Strydはランニングパワーメーターのパイオニアで、2016年から世界中で広がりを見せています。
※尚、Strydは2019年秋にデバイスアップデートがリリースされました。詳しくは風・気温・湿度の影響を考慮できるランニング用パワーメーターStryd Version3(V3)レビューの中に記載しましたので、本記事と合わせてご覧ください。
パワーメーターを使用することのメリットや選び方については、以下の記事でも解説をしています。
関連記事:
ランニングのパワートレーニングで得られる5つのメリット
ランニング用パワーメーターの種類と選び方
目次
Strydとは?
写真のランニングシューズ右側中央についている黒の物体がランニングパワーStrydです。
ランニングシューズの靴紐部分にデバイスを装着し、計測します。
スマートフォンやGPSウォッチ(この記事を書いている時点では、GARMIN、SUUNTO、Polar、COROS、Apple Watch)とAnt+またはBluetoothで繋いで、データを取ることが可能です。
基本的にStrydを購入するには、公式サイト(アメリカ)から取り寄せ、セットアップ等全て英語となっています。
※ランナーズNEXTオンラインショップでは日本語マニュアルと初期設定ガイドを特典として販売していますので、ご活用ください。
Strydを通じて取得できるデータは下記の通りです。
- Power(パワー)・・・ランニング中に出力される力。
- Air Power(エアパワー)・・・発揮したパワーの内、何%が空気抵抗や風の影響を受けていたのか?が分かる指標。
※エアパワーの数値が大きい=向かい風などで風や空気抵抗の影響を大きく受けている。 - Cadence(ケイデンス)・・・ピッチ数=1分あたりのステップ数。
- Ground Time(接地時間)・・・ランニング中、足が地面と接している時間。
- Vertical Oscillation(上下動)・・・ランニング中、どれだけ上下方向に動いているか。
- Form Power(フォームパワー)・・・ランニングフォームを維持するための力。
※ランニング中に生み出される力は前方方向だけではありません。上下方向、左右方向などにも力が分散されます。Form Powerは前方方向以外に力が分散された力の数値を表しています。つまり、Form Pwerの数値は小さい方がランニングエコノミーは高いということです。
※仮に同じペースで走っているデータを比較する場合、値が小さい方が少ない力でランニングができている=ランニングエコノミーが高い、ということになります。 - Leg Spring Stiffness(LSS)・・・簡単に言うと、足のバネがどれくらいあるか。
※LSSの値が大きい=ランニングエコノミーが高い、ということになります。 - Running Stress Score(RSS)・・・ランニングを量(距離や時間)と強度の両方からスコア化したパワー特有の指標。
心拍計測できるGPSウォッチと同期することで、上記の各項目+心拍変動を比較することが可能です。
GARMINのランニングダイナミクスで計測できるものを除くと、Stryd特有の計測項目としてはパワー、エアパワー、フォームパワー、LSS、RSSの5つとなります。
ただし、GARMINのランニングダイナミクスは胸部ベルトもしくは腰の部分(ランニングダイナミクスポッド)で計測しているのに対し、Strydは足部で計測しているため、接地時間や上下動の値に違いが出てきます。
個人的な見解としては、上下動は胸部ベルトや腰の部分で、接地時間は足部で計測したほうがリアルな値に近い感じがします。
ですが、より大切なのは、どちらの値が正確か?ではなく、データを蓄積し、データ間の比較をしいくことでどんな変化があったのか?を評価することです。
Strydで出力されたデータ
画像はStrydが提供している無料のソフトウェア Power Centerのキャプチャーです。
PCの画面で確認すると、このようにデータの推移を確認することができます。GPSウォッチと同期させた状態で走ると、Heart Rate(心拍数)と他の計測項目をオーバーラップして確認することも可能です。
スマートフォン上でも同様のデータを確認できます。
他にも、ラップ毎のペースやパワー、Form Powerなどの推移を表にしてまとめてくれます。
GPSウォッチを使っている人であれば、GPSウォッチのソフトウェア上で、Strydのデータを分析することができます。写真のデータはGARMINが提供するGARMIN Connectというソフトウェアです。
ただし、Strydで計測できる数値変動が表としてアウトプットされていないので、現状はStrydのPower CenterかStrydアプリを見ながらデータ分析をする必要があります。
もしくは、Today’s Planなどの有料ソフトウェア上でデータをまとめることも可能です。
参考:ランニングのトレーニング・レース分析にToday’s Planがおすすめなワケ
Strydで得られたデータをどう活かすか?
ランニングパワーメーターStrydはランニングエコノミーの関するデータを算出してくれる優れものです。
ですが、単にデータを算出しただけで満足してしまっては意味がありません。
GPSウォッチに関しても同様に、これらのツールはランニングパフォーマンス改善のために使うことが本来の目的です。
なので、Strydを使用して現状の課題を見つけ出し、解決に向けたアクションプランを作らなければなりません。
または、パワーメーターだからできる活用方法でトレーニング(パワートレーニング)を継続していくことが大切になってきます。
では、具体的にどのようにしてランニングパフォーマンスの課題を見つけ、活用していくのか?
現段階でパワーメーターを活用し、具体的にどのようにしてランニングパフォーマンスの課題を見つけていくのか?について言及するなら、方法は大きく3つ。
- トレーニングの目的ごとにデータを比較できるようにしておく。
- 1回トレーニングの中で、各測定項目が時間とともにどのような変化をしているのかをチェックしておく。
- FTP(Functional Threshold Power)/CP(Critical Power)を活用したトレーニング
では、具体例を紹介しておきましょう。
トレーニング目的ごとのデータ比較
測定項目の中で、Form Power(フォームパワー)はランニングフォームを維持するための力であり、仮に同じペースで走っているデータを比較する場合、値が小さい方が少ない力でランニングができている=ランニングエコノミーが高い、と書きました。
Strydを使って、10㎞・4’30秒/kmでペース走を行うとします。
実際のデータで、アベレージペース:4’30秒/km、アベレージフォームパワー:70.3Wです。例えば、3ヶ月後に4’30秒/kmでペース走を実施した際に、フォームパワーの数値が低くなっていたら、ランニングエコノミーは向上していることが分かります。
つまり、3ヶ月間で取り組んできたこと(ランニングエコノミー改善のために取り組んだこと)が成果として現れているということですね。
逆に、変化が無かった、もしくはフォームパワーの数値が上がってしまった、という場合は別の取り組み(解決策)を考え、実施していく必要があります。
各測定項目の時間変化
次に2つ目について。各測定項目が時間とともにどのような変化をしているのか?をチェックしましょう!と言いましたが、基本的に各測定項目はペースの値に追随します。
どういう事かというと、ペースが上がれば、パワーも上がります。ペースが上がれば、接地時間は短くなります。ペースが下がれば、パワーも下がりますし、接地時間は長くなります。他の測定項目もペースに応じて変化するわけです。
ですが、唯一、ペースに追随しない測定項目が1つ。それは心拍数です。基本的に走るペースが上がれば、心拍数も上がります。ですが、特にフルマラソンなど長い距離、時間を走っている時はそうならない場合があるわけです。
どういう時か?例えば、レース後半で徐々に失速していっている時に心拍を見ると、数値は下がらずに上がっているケースというのはよくあります。
なので、心拍数とその他の測定項目を比較しながらデータをチェックすると、課題が発見できる場合が多いわけです。
FTP(Functional Threshold Power)/CP(Critical Power)を活用したトレーニング
最後に、3つ目のFTP/CPを活用したトレーニングについて。バイクトレーニングをされる方であれば、FTPやCPは馴染みのあるワードなのではないでしょうか。
バイクトレーニングでは一般化しつつあるトレーニングがStrydを使用することによって、ランニングでも行えるようになったわけです。
ランニングの場合、乳酸性作業閾値(LT)や無酸素性作業閾値(AT)といったワードに代表される、いわゆる「閾値」を活用したトレーニングは非常に有効です。
LTやATのパワー版がFTPやCPだと思ってください。日本語では「機能的作業閾値パワー」と表現されます。
FTP=1時間のランニングで疲労せずに出し続けることができるパワーの最高値です。理論的にはFTPを向上させるようなトレーニングを実施すること=ランニングエコノミーを高めることに繋がります。
つまり、パワーメーターを活用したトレーニングは、今より楽に速く走ることを実現できるツールとなり得るのです。
まとめ
ここまで、これから日本でも拡がりを見せていくであろうランニングパワーメーター、Strydについてご紹介してきました。
RUN with POWERを読み進めていくと、パワーメーターとは単にランニング中のパワーを計測し、課題を発見するツールに留まらず、パワーをベースにしたトレーニング方法も確立されています。
ランナーの皆さんからは「マラソンに関するトレーニング方法が分からない」「どんな練習をすれば怪我なく速く走れるのか知りたい」「効率の良い走り方を身に付けたい」といった声をよく聞きます。
ですが、多くのランナーが抱える「練習やトレーニング方法が分からない」という問題は本当の問題ではなく、実際は「何が課題なのかが分かっていない」ことが問題ではないでしょうか。
だから、練習やトレーニング方法が分からないのは、ある種当たり前です。
効果的な練習・トレーニング内容を確立するためにも、データを取得できるGPSウォッチやパワーメーターは、活用して損はないはずです。
ただし、パワートレーニングを実施する際は馴染みのない専門用語もいくつか存在します。
各専門用語を【Run with Power】ランニングのパワートレーニングに関する動画解説まとめとして動画解説していますので、参考にしてみてください。
また、ランニング用パワーメーターStrydには付属のソフトウェア”Stryd Power Center”やスマートフォンアプリのStryd App.があります。
Power CenterやStryd App.では、あなたの「日々の調子」を数値化し、ターゲットレースに必要なトレーニングの提案をしてくれる機能があります。以下の動画でStryd Power Centerの解説をしていますので、ぜひご覧ください。
ランニングにおけるパワートレーニングを実施し、効率良くシンプルにトレーニングを行うことで、今より自己記録を伸ばしたい、ランニングエコノミー、ランニングパフォーマンスを向上させたいという方は、ぜひパワーメーターをご活用下さい。
ランナーズNNEXTでも、ランニングにおけるパワーとは何か?パワーを計測することで、どんなメリットがあるのか?解説していきます。
既に購入を検討している方はランナーズNEXTオンラインショップでも取り扱っていますので、ご検討ください。
※日本語でのトレーニングマニュアル、初期設定の方法を解説した動画と資料を特典でお送りしています。
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