なぜマラソンで30km以降に失速してしまうのか?レースで成功するために越えるべき5つの壁
マラソンに向けたトレーニングを経て、フルマラソン本番を迎えた時、あなたはどんな気持ちになるでしょうか?これから始まる42kmにワクワクする人もいれば、逆に緊張してしまう人もいるでしょう。
マラソンは何度走っても、自分のイメージ通りに42kmを走りきれることは意外と少ないものです。
「今回はしっかりトレーニングしたぞ!」と思っても、レースでは力を発揮できなかったり、30km過ぎまでは順調に走っていたのに、その後脚が重くなってしまい、全く走れなくなった、という経験をした人も多いのではないでしょうか?
身体が軽く、前半のペースが速くなってしまった。思った以上にスタートから心拍数が上がりっぱなしで、いつも通りのペーシングができなかった・・・などなど。
数え上げればキリがありません。それほど、マラソンは難しい競技だと言えるでしょう。
特に多くのランナーが口にするのは「30kmの壁」です。30kmの壁とは通称ではありますが、フルマラソンの後半30km以降に失速してしまうことを指します。
では、なぜマラソンでは30km以降に失速しやすいのでしょうか?今回はフルマラソンにおける30kmの壁、つまり30km以降に失速する原因について、5つの視点から解説すると共に、失速をしないためにできることを考えていきたいと思います。
目次
トレーニングが上手くいっているか否かの判断が難しい
まずはマラソンに向けたトレーニングについて考えていきましょう。
多くのランナーが目標達成に向けて「どんなトレーニングをすれば良いのかが分からない」と言います。
一言で答えが出ない問いであるため、マラソンに向けて「自分が行っているトレーニングが正しいのかどうか?」不安になることもあるでしょう。
様々なトレーニングの方法論が存在しますが、最終的に良い結果がでれば「正しかった」、上手く行かなければ「間違っていた」と判断してしまうのかもしれません。
後述しますが、どんなトレーニングをしてきたか?だけでは、レース結果の良し悪しが決まるわけではありません。
ですが、日頃のトレーニングが良い方向に向かっているかどうかの判断軸があれば、自信をもってトレーニングに励むことができるでしょう。
ただし、トレーニングの判断基準が毎月の走行距離(月間走行距離)となっているケースも多く見受けられます。
例えばフルマラソンで4時間を切るには、毎月200km走らなければならない・・・といった判断基準めいたものがあるのも事実です。
もちろん、毎月200km走って目標を達成できる人もいるでしょうし、できない人もいるでしょう。
フルマラソン(42.2km)を走り切るのが目標なのに、1回あたりのランニングの距離が常に10kmだと、レース本番の後半で失速するのは目に見えます。
逆に常にゆっくり長く走っているだけでは、現状よりも走力をつけることが難しくなります。
大事なのは走行距離ではなく、トレーニングの中身です。
後述しますが、特にランニング中の「強度」と「時間」を考慮した指標で、順調にトレーニングできている要素は何なのか?どんな要素が足りていないのか?が分かるようになると、トレーニングの内容も変わってくるはずです。
レースマネジメントの判断が難しい
マラソンに向けたトレーニングが上手くいったかどうかの判断が難しい上、当日のレースマネジメントの判断はもっと複雑です。
多くの方は、自身が立てた目標から逆算して、レースでのペースを決めます。フルマラソンで4時間を切りたいのであれば、1kmあたり5分40秒ほどで走る必要がありますし、3時間半、3時間を切りたい場合のペースも逆算すれば、把握するのは簡単です。
問題は、そのペースが本人にとっての適正ペースなのか?ということです。当日の体調や気温や湿度などを考慮すると、なおさらその日の適正ペースの判断が難しくなります。
30km以降に失速してしまう原因の1つとして「そもそも現状に見合ったペース設定ができていない」ということが考えられます。
「スタートから一定ペースで走ったほうが良い!」という人もいれば、「ネガティブスプリットで後半にペースを上げたほうが良い!」という人もいます。
後半はペースが落ちることを考慮して、ペース設定するという人もいるでしょう。
もちろん、ペース設定は経験値で補うという考え方もありますが、勘や経験だけだと状況に応じてペース設定を変化させることが難しくなってしまいます。
当日のコンディションを整えるのが難しい
仮にしっかりとトレーニングができて、レースマネジメントの戦略もバッチリだ!という場合でも、当日の体調が優れなければ、最高のパフォーマンスを発揮することは難しくなってしまいます。
もちろん個人差はありますが、レース前に体調を崩しやすかったり、免疫力が落ちているケースもあります。
ピーキング(レース当日に向けてトレーニング量を減らすこと)が上手く行かずに、レース当日に疲れが抜けていない・・・ということも考えられます。
食事やメンタル的な影響で、お腹がゆるくなってしまうこともあるかもしれません。
レース当日に最高のコンディションで臨むというのは、意外と(?)難しいものです。
外部環境にパフォーマンスが左右される
トレーニングが万全の状態でも、レース当日に予想以上に気温が上がってしまうこともあるでしょう。
そうなると、ランニング中の深部体温も上昇し、汗をかくことで体内の水分量も減少します。いつもの寒い時に走っている時と同じ感覚で走っていると、後半に失速する可能性は高くなります。
心拍数の変化で、ある程度のペースコントロールは可能ですが、ランニング中の深部体温は分かりませんし、仮に気温が暑くて、深部体温や発汗量が高くなる場合でも、どれくらいペースを落として走った方が良いのか?なかなか判断が難しいわけです。
逆にいつもより天候が悪く、気温が下がることもあるでしょう。
これまでは、なかなか外部環境の変化に合わせて走ることが難しかったため、レース後半に失速するというケースは必然的に多くなったと言えます。
食事・内臓疲労の問題
意外と見過ごされがちなのが食事や内臓疲労に関する問題です。
食事と内臓疲労の問題を一括りにするのもどうかと思いましたが、要は胃腸の問題はランニングパフォーマンスに大きな影響を与えます。
フルマラソンのように長い時間を要する持久系スポーツの場合、身体を巡る血流は優先的に筋肉に送られていきます。
なので、内臓への血流は相対的に少なくなってしまうわけです。内臓の血流量が下がってしまうと、消化・吸収機能が落ちてしまいます。
レース中は水分やエネルギーなどを補給する必要がありますから、スタートの段階で内臓に疲労が溜まった状態だと高いパフォーマンスを発揮することが難しくなってしまいます。
ただし、内臓疲労は身体的な疲労に比べて自覚しにくいのが厄介です。
30km以降の失速と栄養に関する内容は、フルマラソンの「30kmの壁」はなぜ現れるのか?その原因を考察してみた!の中で解説をしています。合わせてご覧ください。
5つの壁を越えるために必要なこと
ここまで、特にフルマラソンで生じる後半の失速(通称30kmの壁)が起きてしまう原因について考えてきました。
では、どうすればこれらの問題を解決できるのでしょうか?
もちろん、30km以降に絶対に失敗しない方法というものは残念ながら存在しません。
なぜなら、レース当日に最高のパフォーマンスを出すには、前述の通り何か1つの要素だけ上手くいけばいい!というものではないからです。
ですが、ある2つの考え方を通じて、30km以降の失速を今よりも確実に減らすことができます。
運動強度を決定するFTPという概念
その考え方は何かと言うと一つは「閾値」を計測することです。
閾値とは簡単に言うと、「これ以上速く走ったらバテやすくなるという1つの境界線」みたいなものです。
閾値よりも遅いペースで走れば、長く走れるけど、閾値よりも速く走ると、長時間走り続けることができないという感じのもの。
今ではGPSウォッチを活用することで、心拍数をベースに閾値を予測することができます。ですが、そもそも心拍数はその日のコンデイション(自分の体調や気温や湿度など)によって、数値が左右されやすいので、閾値を正確に把握することは難しいわけです。
参考:【心拍トレーニングの限界】心拍に影響を与える7つの要因
そこで、その日のコンデイションに左右されない指標として、パワーを活用した「閾値」、Functional Threshold Power(FTP)を活用します。
パワーはリアルタイムに運動強度を把握でき、「1時間ランニングを維持できる強度」と定義されているため、心拍数を活用するよりも分かりやすい指標となるわけです。
と、言ったところで、「何となく分かったような分からないような・・・」という感覚に陥るのではないかと思い、分かりやすい指標を紹介しましょう。
FTPを計測することで、例えば
こんな感じで、自分が実施しているトレーニングでどこが弱点なのか、弱点を克服するためにどんなトレーニングをすれば良いのかが分かるようになります。
それだけでなく、普段のトレーニングやレースから、どれくらいの運動強度でトレーニングをしていて、どれくらいのパワーを発揮できるのか?といったグラフまで出してくれます。
例えば、このグラフから読み取れるのは、これまでのレースやトレーニングで60分間維持できる最大のパワーは262Wで、260Wでのランニングは10回行っているということが読み取れるわけです。
FTPを計測し、定期的にアップデートしていくことで、自分自身のトレーニングの傾向や癖が理解できるようになり、レースでどれくらいのペースが最適なのか?が理解できるようになります。
気温や湿度などの外部環境によるパフォーマンスの変化は個人差が大きいですが、気温の変化に応じたペースコントロールのガイドラインを参考にすることができます。
身体に加わる負荷を定量化するストレススコア
そしてもう一つが「ストレススコア」を計測し、コントロールすることです。
ストレススコアを計測することで、ランニング中にどれだけの負荷が加わったか?が分かるだけでなく、目標とするレースに向けた計画が作りやすくなり、レースで最高のパフォーマンスを発揮できるだけのコンディションの調整や、最適なペーシングが可能となります。
ストレススコアとは聞き慣れない言葉かもしれませんが、簡単に言うとトレーニングにより「強度」と「時間」を考慮した、身体に加わる負荷の量です。
例えば、毎月の月間走行距離が200kmの人と250kmの人がいたとします。数字だけ見ると、250km走った人のほうが、身体に加わるダメージが多い印象があるかもしれません。
ですが、走行距離だけで身体に加わるダメージを判断することの問題は、「トレーニングの強度が分からない」点にあります。
もし月間走行距離200kmのランナーが、毎回のトレーニングを追い込んで走っていた一方で、250kmのランナーは毎回のレーニングがジョギングしながらゆっくり走っていた場合、月間走行距離200kmのランナーに加わるストレスの方が大きい可能性があります。
つまり、ポイントは「どれくらいの量を走ったか?」という視点だけではなく、「どれくらいの運動強度で走っていたのか?」という視点の両方が大事になってくるということです。
この「強度」と「時間」を考慮した数値がストレススコアです。
各トレーニングのストレススコアを計測するには強度と時間を計測する必要がありますが、強度はランニング用のパワーメーターを活用し計測します(勝手に計測してくれます)。
運動強度と言うと、心拍数で計測できないのか?という疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。ですが、ランナーが心拍数だけで運動強度を判断するのは限界がある!という記事の中で紹介したように、心拍数では運動強度を正確に把握することが難しいわけです。
ストレススコアが分かれば、日々のトレーニングを最適化することができますし、特に大切なレース前にコンデションを整えるためにも活用できます。
そうすることで、身体的な疲労、内臓疲労をコントロールすることが可能になるわけです。
まとめ
ここまでマラソンで30km以降に失速してしまう原因と、その対処法について考えてきました。
残念ながら、「これさえやれば全てが上手くいく!」というものは無く、レースでのパフォーマンスは様々な要因が関係しています。
ですが、今までは分からなかった数値が分かるようになり、目標を達成するために必要なことは何か?が以前よりも確実に分かるようになってきました。
気合と根性が必要な時もあります。
ですが、気合と根性だけに頼っていると、なぜ上手く行ったのか?逆になぜ上手く行かなかったのか?が分からないまま、結局「月間走行距離」というモノサシだけで、トレーニングができたかどうかを判断せざるを得なくなります。
大事なのはトレーニングの「強度」と「時間」であり、パワーを計測することがマラソンにおいて今まで分からなかったことを解明する1つの方法だと考えています。
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