【最新ウェアラブルデバイスHumon Hex】ランニング時にリアルタイムで筋肉中の酸素を計測し、疲労状態を可視化する!

テクノロジーの進化の恩恵を受けて、ランニングやマラソンの世界でも、様々なデータを「手軽に」取得できるようになってきました。

GPS機能付きのランニングウォッチや心拍計、パワーメーターなど、日常の中で個人が計測できる項目が増えたおかげで、どうすれば速く・長く走ることができるのか?どうすれば最高のコンディションでレースに参加できるのか?どうすれば、自分に合った走りができるのか?

今まで分からなかったことが、少しずつ分かるようになってきたわけです。

ランナーズNEXTの中でもランニングウォッチ・GPSウォッチに関する情報、心拍数を活用したトレーニング、パワーメーターを活用したトレーニングなどの情報を発信してきました。

そして、次にご紹介するのが「ランニングやマラソン中の筋肉がどんな状態なのか?」を可視化するツールです。

乳酸性作業閾値(LT)を計測しランニングパフォーマンスを向上させるには?という記事の中で紹介しましたが、血液を採取しなくても、心拍数から乳酸がたまり始めるポイント(乳酸性作業閾値)を予測することで、パフォーマンスの向上に役立てることができます。

例えば、心拍数が1分間に160拍を越えるような運動強度だと、乳酸が溜まりやすくなる・・・という人が仮にいたとしましょう。

すると、この人が長時間持続可能な運動をしようとした場合、(単純に考えると)1分間の心拍数が160を越えないようにすればいいわけです。

ただし、ランナーが心拍数だけで運動強度を判断するのは限界がある!の中にも書いた通り、心拍数はその日の体調や天候や気温・湿度などの外部要因によって大きく左右されるため、乳酸性作業閾値を予測する指標としては、あまりお勧めできません。

そこで最近注目をされているのが、筋肉の酸素濃度を可視化するウェアラブルデバイスHumon Hexです。

Humon Hexはアメリカ、アリゾナ州フェニックスにあるDynometrics Inc.が開発・展開しています。

※HumonはHYPE Sports Innovation×アシックスのアクセラレータープログラムで選ばれたスタートアップ。

Humon Hexで計測できるSMO2とは?


※Humon Hexはランニングやサイクリングの際に太ももに装着して計測するデバイス。

医療現場で働いている方や低酸素室でランニングやバイクトレーニングを行ったことがある方なら、パルスオキシメーターを使ったことがあるはずです。

「指先」にセンサーを取り付けて、血液の酸素飽和度を計測します。

Humon Hexで計測できるSMO2に対して、指先で計測するものをSPO2と呼びます。

SPO2は血液中にどれくらいの酸素が含まれているか?の指標となり、健常人の安静時であれば、血液中の酸素飽和度は基本的に96%以上。

運動強度を上げたり、標高の高いところでは、血液中の酸素濃度は低くなります。

SMO2は筋肉中の酸素飽和度を計測したものです。Humon Hexはランニングやサイクリング中に太ももに装着するので、指先で計測するSPO2と比べると、運動中は継続的にデータを取ることが可能です。

ただし、Humon Hexで計測できるSMO2がSPO2と違うのは、筋肉中の酸素飽和度が個々の体力レベルによって違うという点にあります。

運動前で平均すると63 ± 10%、筋肉に酸素が行き渡った状態で72% ± 10%、酸素不足の状態で52 ± 17%。

SPO2の数値と比較すると、SMO2の数値は低いことがわかります。

SMO2を計測することは何のメリットになるの?

SMO2を計測することのメリットは大きく3つあります。

1つは筋肉中の酸素飽和度の変化に応じて、ペースコントロールができること。ランニングの強度を変化させると、SMO2の値も変化します。SMO2の数値が下がり続けているということは、長時間同じペースを維持できない可能性が高い、というわけです。

もう一つはウォーミングアップがその後のパフォーマンスに与える影響を可視化できること。ウォーミングアップの有無、質の違いでSMO2の値は異なります。ウォーミングアップで筋肉に酸素が行き渡る状態を作ることができるということです。

最後に、インターバルトレーニングなどの間欠性持久力トレーニング(一定期間の休息期間を設けながら行うトレーニング)を実施する場合に、セット間の休息をどうするか?という問題があるのではないでしょうか。

通常、一定の回復期間を経て次のセットのトレーニングに移行しますが、Humon Hexを使用することで、筋肉の回復状況を見ながら最適なトレーニングを行うことができるわけです。

参考記事:インターバルトレーニングで得られる効果をまとめてみた!

Humon HexはスマートフォンもしくはGarmin(ガーミン)のGPSウォッチと繋いで、計測をしていきます。

スマートフォンと繋いだ状態で計測すると、下記のようなグラフが生成されます。


※Humon Hex専用アプリでランニング中のSMO2データをチェックできる。グラフの真ん中が一時的にオレンジ色になっているのは、ペースが上がったというわけではなく、上り坂を登っているタイミンだったから。

50分程のジョギングの後に、短めのダッシュ(ウィンドスプリント)を4本実施した時のSMO2のグラフです。

SMO2はスタート直後に一旦低下しますが、その後スプリントを実施するまでの間、基本的に数値は大きくなっています。SMO2の数値が大きいということは、筋肉に酸素が行き渡り、身体は「動く(動いている)」状態です。

ウィンドスプリントは4本実施していますが、4本目が一番酸素飽和度は低くなっています。SMO2の値が低い状態での運動は長くは続けられません。

グラフに描かれている4つの色は、それぞれ筋肉中の酸素の供給と消費のバランスを示しています。

Steady State(緑色)は酸素が運ばれてくる量と消費の量のバランスが取れている状態。つまり、ペースを維持できる運動強度です。

Approaching Limit(オレンジ)は酸素が運ばれてくる量よりも、酸素の消費量が多くなり始めている状態で、「このペースで走っていると長く走れなくなりますよ!」というサインです。

Limit(赤色)は酸素が運ばれてくる量に比べて、酸素の消費量が大幅に上回っている状態。長く走ることはできません。

Recovery(青色)は文字通り、筋肉が回復している状態です。酸素の消費量よりも、運ばれてくる量の方が大きくなっています。

ガーミンコネクトやToday’s Planなどの分析ツールでは、グラフ中のカラーは表示されませんが、ランニング中にガーミンのGPSウォッチ上で、酸素の供給と消費のバランスを把握することができます。


※ガーミンのGPSウォッチでSMO2をチェックすることができる。

数値と一緒に上記で紹介した「色」も変化するので、直感的に筋肉の状態を把握することができるわけです。

様々なトレーニングやレースでHumon Hexを使用することで、トレーニングが適切な強度なのか?負荷がかかりすぎていないか?など、科学的に判断することが可能となります

Humon Hexはハーバードビジネススクールとの研究で、従来の計測機器の94%の精度でSMO2を計測できているとの報告をしています。

Humon Hexはランニングパフォーマンスを向上させるのか?

私自身は2018年の2月からHumon Hexを使用しています。

実際に使用していて、一番大きな気づきを得たのは「ウォーミングアップの重要性」です。単純にランニング前のウォーミングアップの有無で、SMO2の数値は大きく異なりますし、SMO2の数値が大きい方が身体は楽に動いてくれることが身体感覚的にも理解できます。

身体を楽に動かすにはどんなウォーミングアップが最適なのか?つまり、自分に合ったウォーミングアップのプロトコルを作成することが可能になったわけです。

市民ランナーの方の多くがウォーミングアップを過小評価しているのではないでしょうか?実際のレースでも、ウォーミングアップ無しで臨むランナーが多く見受けられます。

「ウォーミングアップをするのが面倒臭い」「ウォーミングアップをすると、逆に疲れるのではないか?」など、やらない理由は様々でしょう。

ウォーミングアップをしない状態でレースに参加すると、途中で失速するケースは多々あります。

例えば、ウォーミングアップをしない状態でスタートすると、最初は身体が思うほど動きません。
※ただしロードレースの場合、スタート直後は集団の中で思うように走れないので、あまり気づかない。

その後、自分のペースで走れるようになってくると、徐々に身体が動くようになり、自然とペースも上がってきます。

ここで流れに身を任せていると「今日の自分はいつもと違う!」という錯覚を起こし、気づいたらオーバーペースになっていた・・・という経験はないでしょうか?

ペースだけでは、適正な運動強度は分かりません。レース時のペースが適正なのか?オーバーペースなのか?自分の力よりもスローペースなのか?経験と勘以外の判断軸が持てないわけです。

ここで心拍数を見ていくわけですが、カーディアックドリフトという現象があるように、同じペースを保っていたとしても、徐々に心拍数は上がってきます。カーディアックドリフトも同様に、レース後半の失速につながる大きな要因です。

参考:【心拍トレーニングの限界】心拍に影響を与える7つの要因

なので、SMO2の数値を見ながら走ることで、リアルタイムで自分自身の筋肉の状態を把握しながらペーシングを行うことができます。SMO2のバランスが取れている状態=その時の適正ペースであるという判断ができるわけです。

実際の使用イメージを掴んでもらうために、レビュー動画も作成しました。ご覧ください。

まとめ

今回は海外のウェアラブルデバイスHumon Hexで、ランニング時にリアルタイムで筋肉中の酸素を計測し、疲労状態を可視化する方法について解説をしてきました。

今までは実験室レベルでしか計測できなかった、筋肉中の酸素飽和度(SMO2)を日常のトレーニングでも計測可能になったわけです。

Humon Hexを活用することで、日々のトレーニングが自身の身体にとって適切な強度なのか?負荷がかかりすぎていないか?など、科学的に判断することが可能となります。

日々のトレーニングやレースマネジメントで、ぜひご活用ください。