ランニングのパワートレーニングで得られる5つのメリット
マラソンに必要な練習・トレーニング方法【最新版】にも記したように、マラソンやランニングのトレーニング手法は目的によっていくつも存在します。
もちろん、特定のトレーニングを実施すれば速く走れるようになる!というものではなく、自身の現状を把握した上でトレーニング(計画)を考えていかなければなりません。
以前はランニングを評価する指標は「距離」と「ペース(スピード)」しかありませんでした。
ですが、そこからランニング中の心拍数を把握できるようになり、今ではGPSウォッチなどのデバイスを通じて、手軽にランニング中の様々なデータを取得できるようになっています。
テクノロジーの進歩と共に、ランニングの領域でも様々なデバイスやソフトウェアが生まれているのが現状です。
そこで今回は比較的新しいツールである、ランニング用のパワーメーターを活用した「パワートレーニング」について紹介をしていきます。
目次
ランニングのパワーとは?
「ランニング中のパワーを計測する」と聞いて、イメージできる人の方が少ないかもしれません。
そもそも、ランニング中に発揮される「パワー」とは何でしょうか?
ランニング中のパワーとは、簡単にいうと「どれくらいの「馬力」で走っているのか?」「どれくらいの力で自身の身体を移動させようとしているか?」を示す指標だと考えてください。
ランニングの場合は、前方方向へ身体を移動させることができれば良いのですが、上下方向、左右方向にも力は伝わります。
つまり、地面を蹴って身体を移動させようとした時に、大なり小なり力が必要で、その時に地面に加わった力であったり、身体がどの角度でどれくらいのスピードで動いているか?などの情報をもとにパワーが算出されます。
スピードを上げて走る場合は、それだけ大きな力・パワーが必要ですし、体重が重ければ、同様に大きな力・パワーを使って身体を前方方向へ押し出す必要が出てきます。
特に屋外を走る際は、実際に地面にどれくらいの力が加わっているか?を計測する事はできないので、多くのランニング用パワーメーターが、3Dの加速度センサーを活用し、
ランニングパワー=体重×加速度×速度
として算出しています。
ランニングのパワーを計測する5つのメリット
では、そもそも論として、なぜランニング中にパワーを計測した方がいいのでしょうか?
ここからは、ランニング中のパワーを計測する事で得られるメリットについて、紹介して行きましょう。
パワーを計測する事で得られるメリットは大きく5つあります。
ランニングで加わるストレスが定量化できる
自分自身がどれだけのトレーニングを行ってきたか?を評価する指標はこれまで「走行距離」しかありませんでした。
多くのランナーが、1ヶ月間でどれくらいの距離を走ったか?という月間走行距離を参考にしているはずです。
例えば、フルマラソンで4時間を切るためには月間200kmは走らなければならない・・・とか、3時間を切るためには300km以上走らなければならない・・・といった情報もあるくらいです。
ですが、(月間)走行距離だけではトレーニングの「量」は把握できても、トレーニングの「強度」を把握することができません。
極端な例かもしれませんが、同じ月間走行距離200kmでも、毎回ゆっくり時間をかけながら走る200kmと毎回全力でランニング する200kmでは、明らかに身体に加わるストレスは異なります。
ランニング用のパワーメーターを活用することで、距離だけでなく強度を考慮した「ストレススコア」を算出することが可能です。
その時の体力レベルに対応した運動強度を把握できる
パワートレーニングではFTP(Functional Threshold Power)という指標をもとに、運動強度が決まります。
FTPとは1時間のランニングで疲労せずに出し続けることができるパワーの値です。
1時間で全力を出し切るランニングをした時の平均パワー=FTPと言うこともできます。
1時間持続できるパワーは、その時の体力レベルや外部要因(気温や湿度など)によっても変わります。
例えば、日本で夏場に1時間全力で走った時の結果と、冬に1時間全力で走った時の結果は、仮に体力が全く同じであったとしても、変わるということです。
基本的には、夏場よりも冬場の方が速く走れますよね?
なので、例えば夏場の4分/kmペースと冬場の4分/kmペースでは運動強度は違うはずです。
FTPは自分自身の体力レベルや外部要因によって変化しますので、その時々の運動強度を把握するためにも必要な指標となります。
トレーニングやレース時のペーシングに役立つ
5kmを全力で走る時のペースとフルマラソンを走る時のペースは、当然ながら変わってきます。
ただ、様々な距離のレースで、自分がどれくらいのペースで走ればいいのか?つまり、自分にとっての適正ペースは把握しにくいのが現状です。
パワーメーターを活用することで、運動強度に対応したペーシングが可能になります。
これは心拍数では実現することはできません。
運動強度を把握する場合は、これまで心拍数という指標しかありませんでした。
ですが、ランナーが心拍数だけで運動強度を判断するのは限界がある!にも記した通り、心拍数で運動強度を評価するのは限界があります。
ペーシングの面で考えてみると、例えば、あなたが1,000mのインターバルトレーニングを数本行うとします。
仮にあなたの最大心拍数が190bpmだったとして、各セットの運動強度を180bpmに設定したとします。
ですが、心拍数がターゲットの180bpmに達するには、ある程度の時間がかかります。つまり、心拍計測にはタイムラグが生じてしまうという弱点があるわけです。
もしかすると、1本目では180bpmまで心拍が上がり切らないかもしれません。そうなると、自分がどれくらいのペースで走っていいのかが分からなくなります。
ですが、パワーはその時の運動強度がリアルタイムに表示されるので、ランニングで300Wを出そうと思えば、すぐに出す事はできます。
心拍数のように、タイムラグがないのでターゲットとする運動強度でランニングをすることが可能です。
ランニングエコノミー(ランニング効率)が評価できる
ランニング中のパワーを計測することで、あなたがどれくらい効率的に走れているのか?を数値として算出してくれます。
つまり、あなたのランニングエコノミー(正確にはランニング効率)をトレーニングやレース毎に評価できるというわけです。
例えば、一定期間のトレーニングを経て、同じペースでも少ないパワーで走ることができたのであれば、より「エコ」なランニングができているという判断ができます。
別の視点で考えると、同じパワーを維持して走っているのに、以前より速く走ることができたのであれば、この場合もランニングの効率が上がったと言えるわけです。
ランニングエコノミーは基本的にランニング中の酸素摂取量で評価するのが基本ですが、ランニング効率という切り口で考えれば、ペースとパワーの関係から算出できます。
トレーニングの結果、少ないパワーで速く走る事できれば、あなたのランニング効率は上がったと言えるわけです。
レースやトレーニングの結果を次に活かすためのヒントが得られる
何らかの目標に対してトレーニングをしている人であれば、「結果」が伴います。良い時もあれば、上手くいかない時もあるでしょう。
良い結果が得られた時は、もっと自分を成長させるには何が必要なのか?を考えていく必要がありますし、結果が思わしくなかった時は、改善点を見つけて、次に活かしていく必要があります。
いずれにしても、「振り返り」の作業はもの凄く重要です。
よくあるのは、結果のみを見て、次なる目標を立ててしまい、具体性に欠けてしまうケース。
例えば、フルマラソンで4時間切り(サブ4)を目標にしていた人が達成できなかったとします。
「次こそはサブ4だ!」という目標は立てるものの、具体的にどんな取り組みをしていくのかが不明瞭なまま、次に向かって動き出すケースです。
「練習不足だった・・・」だけで片付けてしまうと、「もっと練習しよう!」「もっと走り込みが必要だ!」のような曖昧なものしか出てこなくなります。
目標が達成できなかったということは、何らかの原因があるはずです。目標設定の仕方に問題がある場合もありますが。
感覚的に好不調を判断するのではなく、ある程度の軸を持って、トレーニングやレースを定量化していくことで、次に向けたヒントを得ることができます。
パワーメーターを使いながらトレーニングやレースに参加することで、上記で紹介したものも含め、今までは分からなかったことが分かるようになるので、圧倒的に振り返りがしやすくなります。
振り返りによって得られたものを、自分を成長させるためのヒントとして活用していくわけです。
まとめ
ここまで、ランニングのパワートレーニングによって得られるメリットを中心にお伝えしてきました。
パワートレーニングと聞くと、「トレーニング手法の1つ」と考えがちです。
見方によってはトレーニング手法の1つではあるのですが、パワーを計測しながらトレーニング管理を行う方法だと考えてください。心拍トレーニングも同様の考え方です。
インターバルトレーニングやペース走、LSDなどのトレーニングをペースや心拍だけでなく、パワーという指標も見ていくことで、パフォーマンスアップのための新たな気付きが得られます。
更に、パワーを計測することでこれまでは分からなかったことが分かるようになってきたわけです。
ペースだけでは分からなかった運動強度が心拍数を計測することで分かるようになり、心拍だけでは分からなかったことがパワーを計測することで見えてきます。
これまでのデータを振り返る手段として、今後のトレーニングを考えるためのヒントを得るための手段として、活用してみてはいかがでしょうか?
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