ランニングフォームを正しく評価するにはどうすればいいのか?

「もっと効率よく走りたい」「怪我をしないような走りを身に付けたい」「自分の走り方は果たして理にかなっているのだろうか?」などなど、走り方やランニングフォームに関する疑問・悩みを持つランナーは多いのではないでしょうか?

特にランニング中にどこかを痛めてしまったり、レース後半で失速してしまうといった経験をしてしまうと、「自分の走り方はどこかがおかしいのではないか?」と考えるようになります。

そこから、(良くも悪くも)走り方に対する試行錯誤が始まるわけです。

残念ながら、自分の感覚だけでは、そもそも自分の走りがどうなっているのか?を把握できません。

さらに、「走り方を変えよう!」と思っても、その結果どこがどう変わったのか?が分からない・・・というのが現状です。

一方、誰かからランニングフォームや走り方の評価を受けることを考えた場合、

「腰が落ちているね」とか「肩甲骨が動いていないよね」とか「踵から着地しているよね」という感じの評価になるケースがほとんどではないでしょうか。

この場合、評価をする側と受ける側が共通認識をしているか?というと、実はそうではないケースがあります。

そこで今回は、ランニングフォームや走り方を「正しく」評価するにはどんなことが必要なのか?を改めて考えてみたいと思います。

 現状、ランニングフォームを分析・評価する場合、大きく2つの方法が考えられます。

評価法1:映像上のランニング動作を見て評価する

評価法の1つ目は、撮影したランニングフォームをもとに評価をする方法です。

ランニング動作を映像として確認することで、感覚で捉えることに比べると、ある程度客観的に動作を評価することができます。

例えば、自分の感覚では着地の際に足の裏全体で着地ができていると思っていたとしても、映像で見ると踵着地だった・・・というケースもあるかもしれません。

映像を活用することで、ランニングフォームを評価する精度は確実に高くなります。

ただし、映像上のランニングフォームを評価する場合、3つの問題点があります。

1つはコーチやトレーナーによって評価が変わる可能性があるということ。

映像を評価するのが「人」の場合、どうしてもその人の経験や主観が入ってしまいます。

極端な例かもしれませんが、何百人ものランニングフォームを評価してきた人(専門家)と、素人の方が同じ評価をできるはずがありません。

実際のランニングフォームから受ける印象は、個人によってどうしても差が出てしまいます。

2つ目はランニングフォームを評価する際に医学的知識の有無で、評価は大きく変わるということ。

ランニングフォームの評価に関する個人差は、単に「経験値の差」による場合はもちろんあります。

それは間違いありません。

ですが、意外と知られていないのは、評価をする側にスポーツ医学に関する知識があるかどうかで、ランニングフォームの評価は大きく変わるということ。

実は解剖学や機能解剖学といって、「人体の構造と機能」に関する知識はランニングフォームの評価に必要不可欠です。

例えば、ランニング動作中に右の膝が内側に入っていた場合に、「右の膝が内側に入っているので注意してください」とのフィードバックをしても、基本的には何の問題解決にもなっていない場合がほとんどだと言っていいでしょう。

なぜなら、基本的に走っている本人に膝が内側に入っている意識や感覚はないからです。

大事なのは膝が内側に入るということはどこの筋肉が弱くなっているか?どこの筋肉が硬くなっているのか?というところまで予測してアプローチして行く必要があります。

単に経験値を積むだけでは、そうしたアプローチを行うことはできません。「人体の構造と機能」に関する理解が重要になってきます。

3つ目はいくら医学的な知識を持って評価をしようとしても「細かい評価」をするのに限界があるということ。

仮にスポーツ医学の知識や評価ができる人であっても、映像のみで細かい評価をするのは限界があります。

例えば、映像上は足の裏全体で荷重ができているように見えていたとしても、実際は内側よりも外側の荷重圧の方が大きかった、ということがあるかもしれません。

左右でバランスよく荷重しながら走っているように見えていたとしても、実際は左側よりも右側の足にかかっている負担の方が大きい場合も考えられます。

なので、人の目だけでランニングフォームを評価をする範囲には限界があるわけです。

評価法2テクノロジーの力を有効活用する

もう一つ方法は、ランニングフォーム定量化(数値化するという方法です。

見た目だけでランニングフォーム を判断する場合、どうしても評価が主観的になってしまうリスクがあります

前述した通り、個々で評価の仕方に違いが出てくるわけなので。

定量的な判断軸を持たせることで、誰が見ても違いが分かるようにできわけです。

例えば、見た目だけで「ランニング中の上下動が大きいですね!」と言われるのと、「このランニングスピードの時の上下動は◯cmなので、同じようなランニング動作の人と比べると上下動が大きいですね!」と言われるのとでは、どちらが納得感があるか?という話です。

明らかに後者ではないでしょうか。

ただし、ランニングフォームを定量化するのも限界があって、問題は「データだけではランニング動作のイメージができない」ことです

例えば、多くのランナーが使用しているガーミンランニングデータから、ランニングフォームに関する情報上下動、接地時間、ケイデンス等)を見ても、実際のランニング動作をイメージすることはできないでしょう

また、データだけに頼っていると、現状は数値には現れてこないランニングフォームの問題を見逃すことになってしまいます。

例えば、ガーミンデータから肩甲骨がスムーズに動いているか?」は分からないわけです。

同様に、着地の際に膝が内側に入っているかどうかの判断もできません。

なので、特に「ランニングと怪我」という切り口で考え場合、まだまだ取得できる情報は不足しています。

ランニングフォームを正しく評価するには?

以上の2つの評価法を踏まえて、ランニングフォームを正しく評価することを考えた場合、

①実際のランニング動作

②その時のランニングデータ

どちらか一方の情報ではなく、両方あることが重要です。

現段階では、映像上のランニング動作を全て定量化することは難しいので、①と②の両輪が必要になります。

ただし、現状はランニング中取得できるデータの項目数、データの精度は発展途上です。

まだまだ改善の余地が残っている領域と言って良いでしょう。

なので、実際のランニング動作を中心に評価し、補足的にテクノロジーを活用していきます。

今後のテクノロジーの進化に期待をしたいところです。

「ランニング効率」という意味では、ランニング用パワーメーターSTRYDで数値化できるようになっています。

参考:ランニング用パワーメーターSTRYDでパフォーマンスは変わるのか?

ランニングフォームの評価だけで終わらせない

ランニングフォームを評価する際のポイントについて解説してきましたが、実は「ランニングフォームの評価だけで終わらせない」ことも、また重要です。

ランニングフォームを評価することは、確かに大切です。

ですが、ランニングフォームを評価しても、「なぜ今の走り方をしているのか?」「何が原因でその痛みが起きているのか?」もう一段深掘りして、その背景にある情報にアクセスする必要があります。

例えば、立脚中期といって片足でバランスを取っている最中に反対側のお尻が落ちてしまっているケースを考えてみましょう。
※立脚中期など、ランニング動作の各フェーズに関する詳細はランニングフォームの分析法〜走り方の問題点を明確にするために〜をご覧ください。

この時、走っている本人に対側のお尻が落ちている自覚があるのか?というと、間違いなくありません。

「反対側のお尻が落ちているから落ちないように気をつけてください」とアドバイスをしても、かえって不自然な走りになり、逆効果になる恐れがあります。

重要なのは、なぜ立脚中期に対側のお尻が落ちてしまうのか?を考え、検証していくことです。

もちろん、ランニングフォームの評価から原因が変わる場合もありますが、ランニング動作は様々な関節や筋肉が関与しながら起こる動作なので、例えばもう少し単純な動作、筋力、柔軟性などを評価してみる必要があります。

まとめ

ここまで、ランニングフォームを正しく評価する方法について考えてきました。

もちろん、実験室などの専門かつ特殊な環境であれば、実際のランニングフォームと、その時の詳細なデータを取得することはできるでしょう。

もしかしたら、この先ランニング動作の映像を全て定量化できる日が来るかもしれません。

ですが、今回考えたのはランニングマシン上で行う評価ではなく、実験室のみで使用できる機器を使った評価でもないということです。

実際のランニング動作と、主にウェアラブルデバイスを通じて取得できるデータをもとに評価する方法を考えました。

つまり、より手軽にランニングフォームを評価する方法を考えたわけです。

今後、テクノロジーの進化は益々進んでいくでしょう。

きっと、現状では把握できない数値や指標が見れるようになるはずです。

ただし、テクノロジー全盛の時代にあっても、データのみでランニング動作を「評価し切る」までには至っていません。

テクノロジーの進化と同時に、ランニング動作を評価するコーチやトレーナーの「目」を同じく養っていくことも、まだまだ必要です。