マラソン・トレイルランニングレース中のエネルギー補給についての考察

フルマラソンやウルトラマラソン、トレイルランニングのレースでは、完走するまでの間に必ず「補給」をする必要があります。

水分やミネラルの補給はもちろん、エネルギー補給をしなければ、特に長時間に及ぶレースでは、脱水症状やいわゆるハンガーノック(要はガス欠)になってしまうリスクがあるからです。

とは言うものの、特にロングレースの場合、「どんなものをどれくらい摂取すればいいんだろう・・・?」と悩んでいるランナーも多いはず。

そこで今回は筆者の参加するトレイルランニングレースをもとに、レース中のエネルギー補給について考えてみたいと思います。

※今回の記事は頭の中を整理する目的でもあるため、分かりにくい部分が多々あると思います。その点はご了承ください。適宜、追記・修正していきます。

エネルギー補給量は感覚だけに頼らない

安静時を含めて、何らかの活動を行う場合、人間は常にエネルギーを消費します。

基本的に身体に蓄えられている糖や脂肪をエネルギーに変えることで、私たちは身体活動を行っているわけです。

ただし体内に貯蔵できる糖質の量は限界があるので、長時間の運動を行う場合は、適宜糖質を補給していかなければなりません。

体内に豊富に存在する脂肪を効率良く使えるように、日頃の食習慣やトレーニング、運動強度をコントロールしていくことも可能ですが、長時間のレースでは糖質の補給は必須です。

ですが、レース中に補給する量を感覚で決めていると、その日のコンディションによってはエネルギー不足に陥る可能性もあります。逆に過剰摂取になるリスクもあるわけです。

そもそも、感覚で補給量を決めなければならないとなると、初めてウルトラマラソンに挑戦する、トレイルランニングレースに挑戦する際の目安がなくなってしまいます。

個人的には、ある程度エネルギー補給に関するベースを数字で考えた上で、個々の経験値を積み上げていけばいいのではないか?と考えています。

ランニング中のエネルギー消費量をどう求めるのか?

現状、運動強度と消費エネルギーと言う文脈で広く普及しているのはメッツ(METsMetabolic Equivalents)という考え方です。

メッツは安静時(1メッツ)に比べてどれくらいエネルギー消費をしているか?を簡略化した数値で、例えば1km730秒ペースであれば8.3メッツ、フルマラソンでサブ3を目指すペースであれば、だいたい12.5メッツといった感じで決められています。

改訂版身体活動のメッツ(METs)表より

METsを運動強度として使用する場合、下記の公式に当てはめるとランニング中の消費カロリーが求められるわけです。

消費カロリー(kcal) 時間(h) × 体重(kg) × 運動強度 × 1.05(kcal/METs/kg/h)

人間は安静時に約3.5ml/kg/分の酸素を消費しています。酸素を1リットル消費すると、5kcalのエネルギー消費です。1METSの運動を1時間行うと、体重1kgあたり3.5(ml/kg/分)×60(分/h)×5(kcal/リットル)÷10001.05kcalのエネルギーを消費することになります。 

つまり、レース中に摂取するエネルギーはレース中の活動時間と体重、METsをもとにした運動強度が分かれば、求められるということです。

仮に60kgのランナーがフルマラソンで3時間で走ることを目標にした場合に消費するエネルギーは

3(h)×60(kg)×12.5Mets×1.05=2,362.5kcalとなります。

では、レース中に2,362.5kcalのエネルギー補給が必要になるのか?というとそうではありません。

人間の身体には1,600kcal〜最大2,000kcal程のエネルギーを貯蔵できるので、仮に2,000kcal貯蔵できていたとすると、2,362.5-2,000362.5kcalのエネルギー摂取が必要になります。

実際には体内の脂肪をエネルギー源として使用することができるので、摂取するエネルギーは236kcalより少なく済みます。1つの基準値として把握しておきましょう。

エナジージェル3個分といった感じでしょうか。

フルマラソンレースに参加する頻度が増えてくると、レース全体で消費するエネルギー量が分かってくるはずです。

なので、実際のエネルギー消費の傾向を掴みながら、補給の量をコントロールしていくことになるでしょう。

トレイルランニングレース中のエネルギー補給

ただ、トレイルランニングの場合はコースプロフィールによってペース配分は異なりますし、運動強度をひとまとめで考えることが非常に難しいのが現状です。

歩くこともあれば、走ることもある。下りも登りも平坦な箇所もあります。なので、METsを規定しにくい。

「じゃあ結局感覚に頼らなければならないのか?」というと、そうではなくてアプローチを変えてみましょう。

GPSウォッチに付随しているソフトウェア上に過去のトレイルランニングアクティビティがあれば、その時の運動強度を把握することができます。

コースプロフィールや距離によって、運動強度を割り出していくわけです。

私の場合は

  1. 3040kmのトレイルレースであれば、運動強度は平均すると89METs程度。
  2. 5080km程度のミドルレンジのレースでは6~7程度。
  3. 100kmを超えるロングディスタンスレースの場合、4.5~6程度になります。

今回参加するのは100マイルのトレイルレースで、累積標高が10,000m以上ある山岳系のレースです。

2,000m以上の標高の中を走り続けたことがないので、実際にどの程度の運動強度になるのかは定かではありませんが、過去の様々なデータを見ていくと4.5~5程度になるのではないかと思います。

今回は運動強度を5として考えてみましょう。

制限時間は53時間で、体重は66kgです。

前述の公式に当てはめて考えると、

53(h)×66(kg)×5(METs)×1.05=18,365kcalとなります。

ただ、今回のレースは運動強度そのものは高くないので、体内の脂肪を多分に使うことができると考えられます。

(というより、丸2日と少しで18,000kcalの摂取はどんなに頑張っても無理です・・・)。

ジェルなら約180個・・・。

ここで重要になってくるのが脂質代謝です。

要はどの程度、脂肪を使ってランニングができるか?

運動強度が高ければ、脂肪よりも糖が優先的に使われます。逆に運動強度がある程度低い場合は糖よりも脂肪が優先的に使われるわけです。

レース中に体内の脂肪をどの程度利用できるか?

では、今回のケースではどの程度の脂肪が使われるのでしょうか?

仮説を立ててみます。

普段の食生活やトレーニングによってエネルギー代謝は変わってきますが、Training Essentials For ULTRARUNNINGによると、最大酸素摂取量の40~60%の運動強度で糖と脂肪の利用率はそれぞれ50%になるとの記載があります。

※運動強度が最大酸素摂取量の60%を超えてくると、糖質を使用する比率が急激に増えてくるそうです。

ただし、最大酸素摂取量をベースとした運動強度の把握には専門施設での計測が必須なので、簡易的に心拍数(心拍予備量%HRR)をベースに考えていきましょう。

私の最大心拍数は192bpmで安静時心拍数は55bpmです。年齢は36

(最大心拍数-安静時心拍数) × 運動強度(%) + 安静時心拍数

の公式に当てはめると、

(192-55)×0.4~0.6+55=110~137bpm

仮にこの心拍数内でレースを走ったと考えると18,365kcalの半分は脂肪で賄うことができ、さらに体内貯蔵分の最大2,000kcalを引くと約7,200kcalのエネルギーを補給することになります。

これまでロングレースの時の平均心拍は140bpm程度なので、運動強度としては%HRR62%です。

仮に18,365kcalの内、45%を脂肪で帯なうことができたと考えると、65%の10,100kcal-体内貯蔵分の2,000kcalを引いて、ざっくりですが8,100kcal53時間の中で補給していく計算になります。

ロングレースの場合は基本的にレースの前半と後半部分でエネルギー消費量は単純に半分になるわけではなく、前半の消費量が大きくなる傾向にあります。

理想を言うと、区間ごとに補給計画を立てる必要がありそうですが、色んな意味でそこまでの余裕はなく・・・。

これまでのレースではエイドステーションで食事をしているので、実際にレースでどの程度の補給をしているのか分かっていません。

今回のレースでは、「平均値」をもとに計画を立ててみたいと思っています。

エネルギー補給用に使用しているサプリメント

レース中のエネルギー補給に関しては、消化吸収の観点から全体の半分はジェルやドリンク等のサプリメントで補うようにしています。

現在メインで使用しているのは以下の3つです。

1.ウィンゾーン

レースでは2つのメーカーのエナジージェルを使っていますが、メインはウィンゾーンのエナジージェルです。

1本あたり115kcalで270円で販売されています。

海外の甘いジェルが苦手なので、これまでは飲みやすいマグオンを使っていました。

2018年に入ってウィンゾーンが発売され、実際に試した感じではマグオンと同じく、おいしく飲みやすい!味覚は人それぞれ違いますが、日本人なら誰もが美味しいと思うはずです!

マグオン同様に、ウィンゾーンのエナジージェルには同じ量(50mg)のマグネシウムも入っています。

かつ、マグオンよりも1個あたり30円ほど安く購入できるので、特にジェルの数が多くなってしまうロングレースでは必須アイテムです。

はじめはパイナップル風味の1種類だけでしたが、今では計4種類になっていてシークワーサー風味は今回初めて使用します。

2.粉飴ジェル

2つ目の粉飴ジェルは飲みやすさはもちろんですが、何よりコスパ最強のジェルです。

味ならウィンゾーンがおいしいですが、コストを含めた総合力は粉飴ジェルでしょう!

1本40gのジェル(100kcal)のジェルを20本購入しましたが、2,000円かかりません!他のジェルよりも液体がサラサラしているので、小さなフラスクに移し変えて、携帯します。

3.モルテン

最後はジェルではなく、モルテンといういわゆるスポーツドリンク(粉末)です。

マラソンの世界記録保持者、エリウド・キプチョゲを筆頭にマラソンのランキング上位選手がこぞって愛用するドリンクですが、市民ランナーの場合はマラソンよりもトレイルランニングやトライアスロンで活用できるドリンク。

MAURTEN(モルテン)のスポーツドリンクがマラソンの水分補給の常識を変える!にも書いたように、スポーツドリンクとして摂取した後に体内の酸と交わることでジェル化する特殊なドリンクです。

スポーツドリンクは酸味のあるものが多く、長い距離を走っていると口の中が気持ち悪くなってきます。そこで、適宜モルテンのドリンクを携行します。

味の好みは別れそうですが、個人的には和菓子っぽい甘さが好きで、レース中に飲むとおいしく感じます。特に冬のレースで水が冷えた状態の方がおいしいです。

MAURTEN DRINK MIX 320は一袋1,080円(税込)なので、スポーツドリンクというカテゴリーで考えてしまうと、少し高いですかね。

まとめ

今回は自身のトレイルランニングレース参加を機に、改めてエネルギー補給に関する考察をしてみました。

エネルギー代謝は個人差が大きいということもありますが、ロングレース中の補給に関する情報は、まだまだ少ないのではないかと思っています。

残念ながら「エネルギー補給を科学する!」というレベルにまで達することはできていませんが、少しずつ試行錯誤しながらエネルギー補給を科学していきたいと思います。

今回の考え方とは少し視点を変えて、ランニング用パワーメーターが弾き出す仕事量から補給について考えることもできるようになってきました。

改めてまとめてみたいと思います。