ランニングシューズ市場に衝撃を与えたHOKA ONE ONEの「存在価値」
日本で「ランニングシューズ」と言えば、アシックス、ミズノ、アディダス、ナイキなどを筆頭に、今では数多のメーカー・ブランドが、市場に溢れています。
2015年10月6日に矢野経済研究所が発表した市場調査によると、ランニングシューズは2014年に数量ベースで前年比 104.9%の 1,936 万足、金額ベースで同 108.8%の 615 億 7,000 万円となった、と発表。
2015年には、国内出荷市場規模は数量ベースで2,000万足を突破すると予測されています。
サッカーシューズ207億6,000万円、ゴルフシューズ109億6,000万円と比較しても、ランニングシューズというカテゴリーは大きな市場と言えます。
スポーツシューズブランド各社がクッショニングやフィッティングを追求する中で、近年ではどうやってソールを薄く、軽さを追求しながらも、クッション性を出すかというテーマで各社が競っています。
有名なところでは、アディダスの「ブースト」がクッション性や衝撃吸収性、反発性を兼ね揃えており、アシックスで工学研究とシューズ開発に長年携わっていた三村仁司氏を招聘し、「匠」シリーズを展開しています。
青山学院大学が箱根駅伝で優勝し、アディダスのランニングシューズがフューチャーされてから、一気に人気を博すようになりました。
ナイキは「エアシリーズ」、アシックスは「ゲルシリーズ」と各社特徴を打ち出しています。
各社が様々な機能合戦を繰り広げる中、2009年にフランスで生まれたスポーツシューズブランド、HOKA ONE ONE(ホカ オネ オネ)。
各社のある意味真逆を行くと言っても過言ではない、圧倒的なボリュームのミッドソール(靴底の厚み)。
トレイルランニングの世界では、2010年の長谷川恒男CUP(日本を代表するトレイルランニングレース)で優勝したアスリートがHOKAを着用していたことで注目が集まり、広がりを見せています。
まだまだロードレースの世界では認知されていないブランドですが、ウルトラマラソンではHOKAを使用している一般ランナーも見かけるようになってきました(筆者もその内の1人)。
現在のランニングシューズというカテゴリーの中で異色とも言える、ランニングシューズ、HOKAとはどんなシューズなのか?
今回はHOKA ONE ONE(ホカオネオネ)の日本の代理店である、SUNWESTの川田友広さんにお話を伺ってきました。
※現在、HOKA ONE ONEはデッカーズジャパン合同会社が取扱いをしています。
目次
HOKA ONE ONEが生まれた背景
ジャン・リュックとニコラスの二人によって、HOKA ONE ONEは2009年にフランスで設立されました。
彼らは、走ることが好きでしたが、楽しいはずの下りを苦痛に感じたり、楽しく感じない事もあり、それらを楽しいものに変えたい!という思いからシューズの開発に着手。
2010年にニコラスが長谷川恒男CUPに出場した際(彼自身も出場し、15位に入っている)のインタビューによると、当時は堅くて細いソールが多かったそうなのですが、サーフボードのようなイメージで広く、高く、柔らかく、下り坂を速く走るためのシューズがHOKAであると。
ジャン・リュックをはじめ、他のシューズメーカーで経験を積んだ各分野のスペシャリストによってチームを作り、それまで培った製品開発のノウハウに新しいアイデアを加えていく事で、クオリティの高いシューズを生み出しました。
もちろん、アスリートである彼ら自身の経験と、トレイルランニング、アドベンチャーレースのスペシャリストたちのフィードバックも活かされています。
そして誕生したのがHOKA ONE ONEという画期的なコンセプトを持ったシューズでした。
「HOKA oneone」とは、ニュージーランドのマオリ族の言葉で、意訳すると「It’s time to fly」。これは、HOKA ONE ONEのシューズを履いている際に感じる、自由なのびやかな走りをイメージさせるブランド名となっています。
もともとフランスにはUTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)というトレイルレースがあって、2003年にスタート。
その頃は、まだ山を走るためのいいシューズが無かったそうです。そういった背景があって、創業者のジャンリュックとニコラスが一緒になって考え始めました。
HOKA ONE ONEはトレイルランナーのためのシューズなのか?
もともとは山岳マラソン用のシューズとして生まれたHOKA。今では、山岳マラソン、トレイルランだけでなく、ロードを走るランナー向けにもシューズを作っているそうです。
「走る」ということに関しては全てカバーしていくと思います。と川田さん。
陸上競技で言うと、アメリカの1,500mのシルバーメダリスト、5000mのトップアスリートもHOKAを履いているとのことです。
今後は日本でも、アメリカ同様にトレイルランニングだけでなく、ロードレースや陸上競技でもHOKAのシューズが展開されるとのことで、益々注目が集まります。
例えば、HUAKAやCLIFTONはロードレース用のランニングシューズとして、日本でも既に展開中です。
※アメリカでは既に陸上競技用のシューズ(スパイク)が
契約アスリートによってテストされている。
HOKA ONE ONE Facebookページより
ソールが厚い=ランニングシューズの寿命も長い?
基本的にロード用のランニングシューズは300㎞~400㎞でダメになってしまいますが、HOKAのランニングシューズは使用状況によって500㎞~800㎞くらいは大丈夫とのこと。
「ランニングシューズはEVAというゴム状の生地がダメージが加わってくるとヒビ割れを起こす。これは消耗品なので、絶対にある。」とした上で、「特にトレイルランの場合は、土の中に微生物がいるので、それらがシューズのゴムにくっついて侵食してきますが、他のランニングシューズに比べるとクッショニングが残ります。」とのことでした。
1足のシューズを長く履くことができるというのも、ランナーにとって1つのメリットなのではないでしょうか。
HOKAの「コア」を残し、軽さも追求する
一般的なランニングシューズからHOKAのランニングシューズに変えた人の感覚は?との問いには、
よく聞くのは「背が高くなった」という感覚。身体が酷使されない感覚があるそうです。
中には「走り方を変えないといけない」という一般ランナーの方もいらっしゃったそうです。
「確かにそれも一理ありますが、ランニングフォームはシューズによって変える必要は極端にないんじゃないかなと思っています。そもそもがちゃんと自分の理想のフォ―ムを追及した走りができていないケースが多い。」と。
HOKAには契約しているトレイルランナーやウルトラランナーなどのアスリートがいるそうですが、彼らは山をもの凄い勢いで駆け下りても多くの選手が捻挫等の怪我はしないそうです。
HOKAのランニングシューズはミッドソールが一般のランニングシューズの最大2.5倍程あります。
なので、地面と自分の足までの距離が一般のシューズに比べて離れてしまうので、「どう走るのか?」という問いに対する答えは非常に大事になってくるでしょう。
また、ソールが厚いということは、シューズ自体の重量が重たくなってしまう。フルマラソン以下のロードレースに出場するランナーには、シューズの重さも重要な要素です。
「シューズの重さ」に対して、HOKAはどう対応していくのか?
例えば、前述のHUAKAは男性の26.5cmのシューズで239g、CLIFTONは215gといずれも軽量化に成功。これまでは300g以上の重さのものが多かったそうですが、今後はHOKAのコア、心臓部分にあたるクッショニングを残しつつ、軽量化を目指していくそうです。
※HUAKA カラー:LIME/ANTHRACITE/CYAN
編集後記
今回、川田友広さんとお話をさせていただいて感じたのは、HOKAのランニングシューズは「走る目的」そして「走り方」を自分の頭で考えて、理論的な部分も含めて突き詰めていきたい人に物凄くマッチするシューズだなということ。
色んな「問い」を立てて、自分なりにその問いに対する解決策を考えていくのが楽しい!という人もいると思うんですが、そういった人におすすめです。
川田さん曰く、これから新しいことにチャレンジしたり、新しい発見をしたいと思っている人に履いて欲しいとのことでした。
川田さんは20代前半、「レース志向」で常に走っていたそうです。
海外のもトレイルランの大会にも出場し、レースに出る中で、「走る本来の楽しさというものが何なのか?」ということを考えるようになり、その際に出てきたのが「自然の中で楽しく走りたい!」ということ。ここは今でもブレない部分だと仰っていました。
以下は川田さんがインタビューの中で仰っていたことです。
もちろん、速く走れるということは素晴らしいことですが、楽しく面白く走らないと、何事もそうですが、継続ができません。
なので、30代に入って徐々にレース志向から「楽しさ、面白さを追求していくこと」にシフトしていきました。そうすると、見えてくる景色も変わってきて、自分にとって特別な意味を持ったレース以外、今ではほとんどレースに出なくなりました。
今は多くのランナーがレース志向になってしまっていて、そういう人達が走ることの楽しさをどこに求めているのかなと思う時があります。
「文化・カルチャー」を作るには今よりも多くの人達が必要になるので、もっと裾野を広げる必要があります。レースでタイムを縮めていくことが全てではないと思っています。
HOKAは走ることを文化にしてくためのブランドであると思って、仕事をさせていただいています。
流行り廃りではなく、どうやって走ることのカルチャーを作っていくか?その問いに対する1つの答えとして、「面白いこと」をやっていきたいと思っています。山で面白い遊びをしている人達でありたいですね。