世界中で人気爆発のクロスフィットを長距離ランナーが取り入れるメリット

今回の記事は本職のクロスフィットのトレーナーとしての知見を踏まえて書きました。

クロスフィットとは、人によっては耳慣れない言葉かもしれません。

1990年代にアメリカで生まれた比較的新しいトレーニング・メソッドで、ウェイト・リフティング、ランニング、鉄棒、ケトルベル、縄のぼり、メディシン・ボール、自重トレーニングなど多種多様な動きを組み合わせることにより、総合的な運動能力の向上を目指すものです。

そのクロスフィットのトレーナーがなぜランニングを語るのかと思われる方は多いでしょう。

世の中にはランニングについて書かれた本は山ほどあります。

その著者の多くは元オリンピック選手だったり、そのコーチだったり、箱根駅伝のチーム監督だったり、ランニング・クラブを主宰する専門家だったりします。

言うまでもありませんが、そこには様々な理論や方法論があり、ランニングの奥深さがうかがえます。

ただ、ごくごく当たり前のことなのですが、ランニングの専門家によるランニングの指南書は「どうやって走るか」「どれだけ走るか」にのみ焦点があてられ、それ以外の部分は軽く扱われてきたように私には思えます。

今回の記事では、そのような主流のランニング理論にあえて異を唱えるものではなく、あくまで専門外の視点から市民ランナーに別の選択肢を示すものです。

ランニングの専門家にはランニングの専門家に相応しい方法論がある筈で、それは長年の検証に次ぐ検証に裏付けられた最良の方法なのでしょう。

但し、その検証は多くの場合、誰それをオリンピックで金メダルを取らせたとか、大学の駅伝チームを箱根駅伝で勝たせた、などといった、いわば普通の市民ランナーにとっては雲の上の世界の成功例が根拠になっています。

そのような指南書では、オリンピック金メダリストがマラソン・ランナーの最高峰だとして、そのランナーの経験から引き算をして市民ランナー向けに焼き直したような方法論をよく目にします。

極端に単純化した例で言いますと、金メダリストは月1000キロ走った、フル・マラソンで3時間を切りたければ月300キロ、4時間を切りたければ月200キロ、完走だけを目指すのなら月100キロを目指しましょう、と言う具合に上から下へと目標数字を設定していくやり方です。

ランニング・ブームに伴う故障者の増加

そうしたやり方が間違っているとは思いません。

現実にランナー人口は増え続けて、多くの人がフル・マラソンやウルトラ・マラソンを完走しているわけですから。ただ、弊害も多く発生しています。市民ランナーの多くは何かしらの故障に見舞われます。ハーバート大学が2012年に行った調査によると、日常的に走っている人のうち実に79%が故障を経験したことがあるそうです。

故障とまでいかなくても、レースの後で長引く筋肉痛に悩み、日常生活に支障をきたす人、かえって健康を損ねてしまっている人は後を絶ちません。努力や忍耐といった言葉を好み、苦しみに耐える姿に美を見出すのが日本人のメンタリティーだとしたら、そうした弊害もまたマラソン・ブームの一因なのかもしれません。

だけどもっと他にもやり方はありますよ、と別の選択肢を提案したいのが本記事の趣旨です。山頂に登るには多くのルートが存在するように。

ケガのリスクを減らし、同時にパフォーマンスを上げるには

クロスフィットを長距離走に取り入れるメソッド「CrossFit Endurance」の創始者であるBryan MacKenzie氏の著書「Unbreakable Runner」では、5Kレースに始まりフルマラソンやウルトラマラソンに至るまで、全ての長距離ランナーに対して、走るのは週2、3回にとどめて、残りの日をクロスフィットのトレーニングをすることを奨めています。

1日走ったら、次の日はクロスフィット、とそれぞれを交互に行います。

たまに朝走って夕方クロスフィットを行う日もあるので、両方とも週3、4回程度のトレーニング頻度になります。LSDのように長い距離や長時間の走り込みは基本的には行いません。

クロスフィットのトレーニングは原則的に1日に1時間以内です。走る日も短・中距離のインターバル走が中心になります。持久力を高めるためであっても、高い負荷をかけたインターバル系の運動がよりパフォーマンスを上げる効果がある、という考えです。

日替わりでクロスフィットとランを行うことにより、まず第一に飽きがきません。そして同じ箇所への負荷を蓄積させないことによって、故障のリスクが低くなります。

よくランニングの専門書ではインターバル走やペース走などのきついポイント練習をした翌日には軽いジョギングで疲労を抜くことを勧めてあります。

いくらゆっくり走って負荷を少なくしたとしても、走るという動作をすること自体は変わりませんし、着地衝撃がゼロになるわけではありません。

どうしてもそのやり方では膝や足首など体の同じ箇所ばかりに負担がかかってしまうのです。

一方でクロスフィットのトレーニングでは全身を満遍なく鍛えられますし、知らず知らずに筋肉のバランスもよくなります。

そして疲労した筋肉の回復を図りながら別の筋肉を鍛えるとともに、心肺能力を絶え間なく進歩させることが可能になります。

クロスフィットとは?

それではクロスフィットって一体何をすればいいのかとなりますと、それを一言で説明するのは非常に困難です。

あえて特徴を挙げるとすれば、1)広範囲の運動能力(スタミナ、パワー、柔軟性、スピード、巧緻性、バランス、反応力、など)を偏ることなしに高めることを目的にし、2)短時間に集中してトレーニングすること、3)毎回異なったメニューを組むことにあります。

クロスフィットの内容は多岐に渡りますが、全身運動もしくは複合的な筋肉を使用する動作が中心になります。

筋力トレーニングを例にとりますと、アームカールやレッグプレスなどの筋肥大を目的としたものではなく、スナッチやクリーン&ジャークなどのオリンピック・リフティングと呼ばれる全身を連動させる種目を多くします。

重量挙げ競技のように最大重量に挑むこともありますが、多くの場合は心肺能力を高めるためにHIIT(高負荷インターバル)形式のメニューが中心です。

クロスフィットをランニングと組み合わせることにより以下の効果が期待できます。

  • 走行距離を減らしながらもパフォーマンスを維持あるいは向上させる。
  • つなぎを目的としたランを機能的なトレーニングに替えることにより、ケガの危険性を軽減する。
  • 瞬発力とスピードを向上させる。
  • 同じラン動作を繰り返すことによる可動域や柔軟性の減少を防ぐ。
  • 成長ホルモンの増加を促し、加齢による筋力の低下を防ぐ。
  • 体内の脂肪燃焼メカニズムを向上させる。
  • 全身の連動性を高める。

まとめ

クロスフィットはアメリカ発祥ですが、現在は世界中に広まっています。多くのエリートランナーからごく普通の市民ランナーまで様々なレベルのランナーがクロスフィットをトレーニングに取り入れています。

走るだけのトレーニングでもフル・マラソンは走れます。ですが、故障に悩んだり、記録が頭打ちになっているランナーは、少しやり方を変えてみるのも良いかもしれません。

クロスフィットとランを交互に行うと、走る時間と距離は以前の半分、トータルでトレーニングに使う時間も半分ぐらいになります。

クロスフィットの公認ジムは全世界で1万以上、日本国内にも約20箇所ぐらいあります(2018年現在)。ぜひ一度こちらをチェックし、 近くにあれば是非一度訪ねてみてはどうでしょうか?