テクノロジーで「トレイルランニング文化」はつくれるのか?YAMAP(ヤマップ)を活用した新しい山の楽しみ方

「テクノロジーでランニングをアップデートする!」をテーマにお送りしている連載企画。

今回は山を走るトレイルランニングに注目し、そのアクティビティをテクノロジーの力でアップデートできるのか?について考えていきたいと思います。

トレイルランニングや登山と言うと、自然、絶景、人との交流といったイメージが強く、「テクノロジー」という言葉は、かなり縁の薄い領域のようなイメージを受けてしまいます。

ただ、山の中ではGoogleマップに代表されるような、いわゆるオンラインマップでの位置情報が取得しにくい(もしくは全くできない)状況です。さらに、道迷いによる遭難、滑落事故などリスクがあり、多くの「解決すべき課題」が残されているといっていいでしょう。

これらの課題を解決するためには、テクノロジーの活用が1つの鍵を握ります。

今回はテクノロジーでトレイルランニングをアップデートする!をテーマに、福岡県福岡市に本社のある、株式会社ヤマップさんにお話を伺ってきました。

インタビューをもとに、ヤマップに関すること、そしてヤマップがテクノロジーを使ってどんな課題を解決しようとしているのか?紹介していきたいと思います。

ヤマップが手がけるサービスとは?

ヤマップが手がけるメインのサービスがオフラインの場所でも使用できる登山地図のアプリ「YAMAP」です。

現在、122万ものダウンロード数を誇ります。

アプリの一番の特徴としては、冒頭にもあった通り「オフラインの場所でも自身の現在地を把握できる」点です。

例えば、Googleマップに代表されるようなオンラインマップのみに頼っていると、山の中で自身の現在地が全く分からない・・・ということにもなりかねません。

ですが、ヤマップのアプリを使用することで、電波が届かない場所でも、自身の現在地を正確に把握することができます。

通常は高価なGPSデバイスを購入する必要がありますが、スマートフォンの普及も相まって、スマートフォンにアプリをインストールしておけば、誰もが道迷いのリスクを最小限に抑えることができるわけです。

さらにアプリ内で表示できる地図は、リクエストが受けられるようになっていて、地方の里山を含め、地図のカバー範囲が広いのも大きな特徴です。

3つ目の特徴はアウトドアユーザーと一緒にアプリを作っていく点にあります。

実際のアプリを見ていただくと、本当に沢山のユーザーが自身の山行記録(登山ログ)を掲載しています。

それだけでなく、ユーザーがwebやリアルに関わらず、様々なイベントやオフ会を企画し、YAMAP内が1つの大きなコミュニティとなり、その中に様々な小コミュニティが存在しているわけです。

アプリ内で登山ログが増えれば増えるほど、ユーザーにとって有用な情報が増え、登山の計画も立てやすくなるので、アプリを使用することが他のユーザーのためにもなるという好循環を生んでいます。

その他にも、伝統工芸とコラボした商品開発や販売、山岳保険(ヤマップ登山保険)、オウンドメディア、フェスの企画運営と、幅広く活動されています。

“あたらしい山をつくる”ことの1つとして

今では様々なトレイルランニングレースの公式アプリとしても使用されているYAMAPですが、そこにはヤマップの経営理念が大きく関係しているようです。

ヤマップの代表である春山さんは、

「もともと自然の中で暮らしていた人間が都市で生活するようにになったことで、人間本来のバランスが失われている状態にあるのではないか?」

という問題意識を持ち続けています。

自然の中に身を置き無心になってみると、頭の中がクリアになります。また、大切な人と自然の中で過ごすという体験はとても良いものです。実際、近年は都市化の反動からか、そういったアクティビティの価値が高まっていることも感じています。

そのような背景の中で、登山や自然をもっと身近にしていきたいという想いがあるそうです。

ただ、それを伝える時に「山はいいぞ!」「自然はいいぞ!」と言っても、人が自然に近づいてくれるわけがありません。

山を身近に感じてもらうためには、山や自然と掛け合わせる何かが必要で、例えば山ごはん(山でご飯を作ること)は魅力のあるコンテンツの1つです。同じく、「走る」という要素があるトレイルランニングは、非常に魅力のあるコンテンツではないでしょうか。

最近では日本のトレイルランニングレースも盛り上がってきていますが、UTMBを含めた海外のトレイルランニングシーンを見ると、レースに参加をする人、応援をする人、街の人々の一体感と熱狂が感じられ、トレイルランニングが文化として根付いているのが分かります。

UTMBのようなトレイルランニングの文化を日本でもつくれるようになると、従来は無かった山に対するポジティブなイメージを持てるようになるでしょう。

このように、ヤマップはトレイルランニングを含めて、「新しい山の楽しみ方をつくっていきたい」と考えているわけです。

YAMAPでトレイルランニングをアップデートする

テクノロジーという軸で考えると、YAMAPには膨大な量の登山ログデータがあり、人が山の中(オフラインの環境の中)でどのように動いたのか?というデータを持っています。

2017年末には、これらのデータを国土地理院に提供し、地理院の地形図修正に協力をしています。全国の実地調査をするとなると、コストも時間もかかってしまうため、それをビックデータで補っているわけです。

登山ログのデータは、同じ登山道を走るトレイルランにも活かすことがでるでしょう。

例えば、レースの試走をしている人たちのログを見て、「ここはロストしやすいから道しるべをつけた方がいい」と判断ができるなど、大会の運営者が理想的なコースを作るのにも役立てられるわけです。

現在トレイルランニングのレースを主催している、もしくは今後主催していきたいという人たちが、ヤマップと協力することで、安全かつ魅力的なレース設計、レース運営が実現できると言っていいでしょう。

特に最初にコース設計をする時に「このルートを繋げることができるのではないか?」「このルートは普段人が少ないから、レースで使用しやすいのではないか?」といった仮説を立てることができるので、レースに関するコース設計や整備等に関わる労力を抑えることに繋がるはずです。

このようにYAMAPで得られたデータはレースの主催者に必要となるのはもちろん、トレイルランナーにとって必要になります。

例えば、データをうまく活用することで、例えば初心者向きで他の登山者もいるような定番のルート、逆に普段は登山者が少ないガッツリ走れるルートなどが分かるようになります。

練習をするためのルートを考える時に、人が少なそうなルートを自分で選択することで、自分だけのオリジナルコースを作ることも可能です。

YAMAPの登山ログデータは使用するユーザーが増えれば増えるほど、利用者のためになるサービスへと進化していきます。

自分の身を守るという意味でも、他の登山者やトレイルランナーに安全を引き継ぐという意味でも、活用していきたいサービスです。

それらが「トレイルランニングの文化をつくる」活動に繋がっていくのではないかと考えています。