最大酸素摂取量(VO2max)を高めるためのマラソントレーニングとは?

マラソンをしている方であれば、一度は「最大酸素摂取量」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。

最大酸素摂取量とは、その言葉通り「身体が取り込むことのできる最大の酸素量」のことです。

英語で省略したVO2maxの方が馴染みのある方もいるかもしれませんね。

しかし、最大酸素摂取量(VO2max)とは正確にどういった定義で、どのように測定し、どうトレーニングに応用できるのか?と問われると、実はあまり分かっていない部分も多い、というのが現状です。

そこで今回は、知っているようで意外と知らない、最大酸素摂取量(VO2max)についての定義や測定法、マラソントレーニングへの応用法などを紹介していきます。

最大酸素摂取量(VO2max)とは?

まずは、最大酸素摂取量(VO2max)の定義から見ていきましょう。

最大酸素摂取量は、体重1kgあたり1分間に取り込むことのできる最大の酸素量です。単位はml/kg/min。

注目してほしいのは「体重1kgあたり」という部分です。

最大酸素摂取量は、その人が持っている持久力の目安として使われます。

ですが、同じ最大酸素摂取量の値でも体重が違うと、実際に取り込んでいる酸素の量は違うということになります。

例えば、同じ50 ml/kg/minという最大酸素摂取量でも、体重が80kgの人の場合、1分間に酸素を4000mL取り込むのに対し、体重が50kgの人は2500mLしか酸素を取り込むことができません

また、以前は80kgだった人がダイエットをして70kgになった場合、体重が軽くなった分最大酸素摂取量は高く出やすくなります。

80kgの時よりも70kgの時の方が最大酸素摂取量の値が高くなったとしても、体重が減った影響も考えなければなりません。

最大酸素摂取量の日本人の平均値は40mL/kg/min程度となっているようです。

あくまで目安ではありますが、サブ4を目指すなら最大酸素摂取量の目安は平均より少し高い45mL/kg/min。

サブ3を目指す場合はさらに高くなり、60~65mL/kg/minが目安となります。

70mL/kg/minを超えるとアスリートと言えるでしょう。

最大酸素摂取量(VO2max)とマラソンのパフォーマンスとの関係

最大酸素摂取量はマラソンのパフォーマンスとどのような関係にあるのでしょうか?

最大酸素摂取量は前述した通り、体重1kgあたり1分間にどれだけの酸素を取り込むことができるかを示した値です。

これは自分自身の持久力の目安として用いられています。

体内では、糖質や脂質をミトコンドリアという細胞小器官で、酸素を使って分解しエネルギーを得ています。

マラソンのように長時間エネルギーを供給しなければならない運動では、体内に多くの酸素を取り込めるということは重要なのです。

実際に最大酸素摂取量とマラソンのパフォーマンスとの間には負の相関があることが知られています。

どういうことかと言うと、基本的に最大酸素摂取量が高ければ高いほどマラソンのタイムは速くなると言うことです。

しかし、マラソンのパフォーマンスの全てを最大酸素摂取量のみで語ることはできません。

酸素を取り込む能力が高くても、ランニングフォームが悪く、効率の悪い走り方をしていれば、パフォーマンスは低下します。

また、筋肉が十分なパワーを発揮し続けられなければ、走る速度が落ちてしまいます。

最大酸素摂取量を高めることはマラソンのパフォーマンスを高めるのに非常に重要です。

ですが、最大酸素摂取量(VO2max)以外にもマラソンのパフォーマンスを規定する要因がある、ということを忘れないようにしましょう。

最大酸素摂取量の測定方法

では、最大酸素摂取量はどのようにして測定をするのでしょうか?

最大酸素摂取量の正確な測定方法は、トレッドミル(ランニングマシン)を用いて徐々に速度を高めながら限界まで走る、という行程が必要になります。

ランニングスピードの限界に達した時の酸素摂取量を測定するわけですが、その時の値が最大酸素摂取量(VO2max)です。

しかし、この方法で測定するには吸気や呼気を分析する必要があり、専用のマスクを装着して計測しなければなりません。

なので、現状は測定できる場所そのものが、かなり限られてしまいます。

正確に最大酸素摂取量を測定したい場合は、設備の整っているところで測定してもらう必要があります。

ですが、お金も時間もかかるので、簡易的に最大酸素摂取量を推定できる方法があるといいですよね。

最大酸素摂取量を「推定」する方法として挙げられるのが、「シャトルラン」です。

シャトルランは小学校や中学校の頃に、毎年やらされた記憶がある方も多いのではないでしょうか。

これは文部科学省の体力テストで使用されている方法です。

シャトルランは20mの距離を、音に合わせて往復するというものです。

音は徐々に速くなっていくので、走るスピードも速くなり、回数を重ねるごとにきつくなっていきます。

20mの区間を、音に合わせて走れなくなった時点で終了となり、終了になるまでに何回20mの区間を走ったかで最大酸素摂取量を推定することができます。

その他に最大酸素摂取量を推定する方法として、12分間走があります。

12分間でできるだけ遠くまで走る、もしくは多くの周回をこなしていくというもの。

12分間で走ることのできた距離から最大酸素摂取量を推定します。ストップウォッチと距離の分かるフィールドがあれば実践できるのでかなり簡単な方法です。

計算は、以下の式で行います。

最大酸素摂取量 = (12分間で走った距離 - 505) ÷ 45

1,500m走や3,000m走のタイムから最大酸素摂取量を推定することもできます。

こちらの方法は12分間走と比べる明確なゴールが決まっているため、モチベーションを維持することが可能です。

しかし、12分間走と比べると精度は少し劣ります。

最大酸素摂取量を正確に知るには実験室で測定する必要がありますが、フィールドでも簡単に最大酸素摂取量を推定することはできます。

最大酸素摂取量を規定する要因

トレーニングを行うと、体内では様々な変化(トレーニングの適応)が起こっています。

適応の1つが最大酸素摂取量の向上です。ではトレーニングを行うと体内でどのような変化が起こり、最大酸素摂取量が上昇するのでしょうか。

体内で酸素はエネルギーを作り出すために使われます。

そのエネルギーを作り出しているのが、ミトコンドリアという細胞小器官です。

トレーニングを行うとミトコンドリアが増え、体内で酸素をより多く使うことができるようになるため、最大酸素摂取量が向上します。

トレーニングを行うと毛細血管の密度が高まります。

なので、より多くの筋肉に酸素を届けることができるようになるわけです。

つまり、毛細血管密度が高まることも、最大酸素摂取量の向上と関係してきます。

また、ミオグロビンの量も最大酸素摂取量と関係しています。

ミオグロビンは筋肉の中にあるタンパク質で、血管から酸素を取り込む役割を担っています。

トレーニングを行うと筋肉の中のミオグロビンが増え、血管からより多くの酸素を取り込むことができるようになります。

つまり、ミオグロビンの量が増えることも、最大酸素摂取量の向上に関係しています。

単純に肺からより多くの空気を吸い込めるようになった、ということも最大酸素摂取量の向上に関係してきます。

呼吸筋のトレーニングを行うことで、こうした変化が起こります。

このように、最大酸素摂取量の向上は、体内の見えない変化がいくつも重なった結果、現れてくる指標なのです。

最大酸素摂取量を高めるためのマラソントレーニング法

では、最大酸素摂取量を向上させるトレーニングには、どのようなものがあるのでしょうか?

まずは持久的トレーニングです。

持久的トレーニングとは、具体的いうと低い強度で長い時間走り続けるトレーニングです。

このトレーニングは強度が低いので誰でも行うことができ、怪我のリスクも低い方法です。

また、フォームの確認を行いながら走ることができるのもメリットの1つ。

持久的トレーニングを行うことで心肺機能が向上し、毛細血管密度も高まります。

また、骨格筋ミトコンドリアの生合成も起こり、筋肉で酸素を使う能力が向上します。

その結果、最大酸素摂取量が向上します。

持久的トレーニングを行うことで最大酸素摂取量を上昇させることができますが、より効率的に最大酸素摂取量を上昇させるトレーニングとして、高強度インターバルトレーニング(High Intensity Interval Training : HIIT)が挙げられます。

このトレーニングは10~30秒の全力走を、30秒程のレストを挟みながら繰り返すトレーニングです。

HIITを行うことで持久的トレーニングを行うよりも、よりミトコンドリアの適応が起こり、その結果最大酸素摂取量がより向上することが知られています。

効率的に最大酸素摂取量を向上できるHIITですが、トレーニング初心者には負担が大きい可能性が考えられます。

また、激しい運動を繰り返すので膝や腰を痛めたり、ランニングフォームが乱れる可能性もあります。

このトレーニングを行う際はまず、ランニングに慣れていることが前提です。

始める際はダッシュの時間を短く、レストの時間を長めにとって体を慣らすようにしましょう。

関連記事:インターバルトレーニングで得られる効果をまとめてみた!

呼吸筋を鍛えることも最大酸素摂取量の向上に繋がります。

呼吸筋を鍛えることでより多くの空気を肺に取り入れることができ、体内により多くの酸素を取り込むことができるようになります。

呼吸筋のトレーニング方法として有名なのは、ドローインです。

ドローインは床に仰向けに寝た状態で、限界まで息を吸い、限界まで息を吐き出すトレーニングです。

ポイントとしては腹式呼吸を意識すること。

息を吸う時にお腹を膨らませ、息を吐く時にはお腹をへこませるように意識しましょう。

まとめ

今回は最大酸素摂取量(VO2max)とは一体何なのか?測定法や最大酸素摂取量を高めるトレーニング方法などについて紹介してきました。

最大酸素摂取量は持久力の目安となる指標で、毛細血管密度や筋肉中のミオグロビン、ミトコンドリアの量など様々な要素の影響を受けています。

トレーニングを行うことで毛細血管密度が高まったり、ミトコンドリアの適応が起こり、結果的に最大酸素摂取量が向上するわけです。

最大酸素摂取量はマラソンのパフォーマンスを規定する重要な指標です。

最大酸素摂取量を「1つの指標」として、日々のトレーニングに励んでみると良いでしょう。