僅か4年で100回以上開催!全国で広がりを見せている、いま注目の「シャルソン」って何?

マラソンと言えば、いかに速く目的の場所(ゴール)にたどり着けるかを競う競技です。競争は時に美しく、人々を魅了します。2000年のシドニーオリンピックで高橋尚子さんが金メダルに輝いた時、2004年のアテネオリンピックで野口みずきさんが同じく金メダルに輝いた時、日本中が感動しました。

今や日本のランニング人口も1,000万人と言われ、マラソンレースの中には出たくても参加できない・・・そんな大会まであるほどランニング熱・マラソン熱は加熱し続けています。

では、マラソンとは人々と競い合うことだけが全てなのでしょうか?もしくは、自分に打ち勝つことや自分を成長させることがマラソンの大きな目的なのでしょうか?

もちろん、競争・自己成長といった側面を否定している訳ではありません。競技上、無くてはならない要素です。ですが、競争や自己成長というよりも、むしろ「楽しさ」を重視するランナーが圧倒的に多いのではないでしょうか?

勝負に勝つことが楽しい、自分を成長させることが楽しい、ゴール後の達成感が何とも言えない・・・そんな「楽しさ」があるのも事実です。

ですが、単純に身体を動かすことの楽しさ、走った後にビールを飲む楽しさ、仲間とコミュニケーションを取り合う楽しさなどなど。

ランニングが日本でも定着してから、様々なジャンルのランニングイベント・マラソンレースが全国各地で開催されています。中でも今まさに注目を集めているのが「シャルソン」というランニングイベント。

シャルソンとはソーシャルとマラソンを組み合わせた造語。「走ることを通じてまちを再発見し、人と人とが繋がるランニングイベント」というコンセプトで、2012年から全国で延べ100回以上のイベントが開催されています。

そこで今回、シャルソンの創始者である佐谷恭氏(株式会社旅と平和 代表取締役、パクチーハウス、PAX Coworking オーナー)にシャルソンについてお話を伺ってきました。

シャルソンが生まれたきっかけ

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画像出典:http://edition.cnn.com/2014/08/29/travel/medoc-marathon/

佐谷氏ー

きっかけはシャルソンを作った直前に佐谷氏自身が東京マラソンに落選した2011年の秋頃の話です。

Facebookで色んな人が同じく落選をしていて、皆が「残念だ」と書いていました。ですが、別に落ちても走ればいい話。東京マラソンに落ちたから走らないのではなくて、走ればいい!東京マラソン実行委員会に左右される人生なんてダメだよ、ということで作ったのが2012年の2月の経堂マラソンでした。これが第一回目のシャルソンとなるのですが、シャルソンの発想の原点はメドックマラソンです

メドックマラソンから、なぜシャルソンという発送に至ったのかというと、メドックマラソンは毎回どこかのテレビでも取り上げられていて、お酒を飲みながら走る酔狂のマラソンです!と紹介されています

自分自身もお酒が好きだし、たまたま走るようにもなっていたので、1回くらいメドックマラソンを走ってみようかなということで、実際に行ってみたら、お酒を飲みながら走る酔狂のマラソンではないんですよね、本質は!

ワインがグラスで出てくるので、マラソンという進み続ける、できるだけ速く走るという当たり前の姿が前提ではないわけです。もちろん6時間範囲内という制限時間はありますが、立ち止まりながら走ることが素晴らしいなと。

もともと走ることが好きではなくて、ランニングやジョギングを完全に否定していたので、35歳まで。

ですが、ビールっ腹などもあり走り始めて、1回くらいはお酒を飲みながら走るというのもいいかなと思い参加したんです。

ですが、そこにあったものは人が立ち止まる、そしてワインのグラスを交わし合いながら、話をし始めたり、ということが自然に起こっている。凄いことだなと。

あとはマラソン自体が仮装を前提にしているので(もちろん仮装をしていなくても参加はできる)、かなりの数の参加者が仮装に力を入れています。日本人の多くはハッピなどを来て走っているんですが、そんな中途半端な格好では恥ずかしい・・・というくらい面白い!

で、面白い格好をしていると途中で話しかけられますし、逆に面白い格好をしている人には声をかけたくなります。飲んでいる時も飲んでいない時も誰かと話しながら走っている、パーティーをしている感じがありました。

こんなに知らない人と気軽に話すという行為は、普通のパーティでもなかなかないですし、マラソンというカテゴリーの中でも異質だなと思いました。

私はパクチーハウスという、人と人とが話ができ交流できるレストラン、そしてコワーキングスペースという色んな人が集って、何かが生まれる場所を作っていますが、メドックマラソンに参加した時に、「こういう場所でもコミュニケーションが生まれるんだな」ということを感じました。

レストランやコワーキングスペースというのは、場所の中でコミュニケーションが生まれるので、場所自体を自分の色にすることができます。

ただ、お店の中だとコミュニケーションが生まれるのはある意味当たり前です。

ですが、渋谷のスクランブル交差点で、「もっと隣の人と話しましょうよ」というと、何かの宗教と間違えられてしまう。なので、箱の中から出てしまうと、なかなかコミュニケーションが取れない。

ですが、マラソンという広域で走るもので、実際にコミュニケーションが起こっているんだということが凄い発見でした。

メドックマラソンという狂ったマラソンがあって、参加したことがある!という話をしたいと思いました。なので、1回行けばいいかなと。だけど、その本質を知った以上、同時に同じことを日本でやることで現代のコミュニケーションの在り方を変えることができるんじゃないかと思いました。メドックマラソンの日本版をどこでやろうかなと。

その時に北海道でビール会社に協賛してもらってイベントをやろうと思ったんですが、警察に許可を得て・・・こういうコースでやりたい・・・その間にビールやワインを置きたい・・・という話をしたら、恐らく簡単には許可が降りない。

東北酒マラソンというのがあるんですが、これはメドックマラソンの協力を得てやっています。結局レースの途中でお酒を飲むことは許されておらず、ゴール地点で酒祭りをやっているだけです。

もしかしたら10年、20年かけてやれば実現できるかもしれませんが、今必要なコミュニケーションを10年後に実現してもどうなんだ?という気持ちもあったので、もう少し早くやろうと。少なくとも来年やろうと。

最終的にはシャルソンという仕組みになるんですが、シャルソンで集まった人達が走ったり歩いたりして色んなところを回って情報を発信していきながら、地域のマップを作ることができれば、地域に貢献できるかなと。

1回目のシャルソンが開催されるまで

佐谷氏ー

最初はFacebookでイベントページを作ってやりました。半分くらいは友人が集まり、もう半分がパクチーハウスのお客さん、最終的には55人の参加者が来てくれました。

街の発見が基本コンセプトで、今は「給◯ポイント(※1)」となっていますが、第1回目は給水・給電ポイントと表記し、街の飲食店に協力をしてもらいました。

※1 給水・給電ポイントが給◯ポイントとなったのは、他の場所でシャルソンをやった時に、「うちはこれを提供します!」というのを色んな所が言ってくれるようになり、「給饅頭」だとか「給〇〇」と言うようになって、今は給◯ポイントということで統一して呼ぶようになりました。

ペットボトルを持って走る等でもいいんですが、どこかのお店に寄るという行為が必要だなと思っています。

でもレストランなどの飲食店に入ると、普通は水だけもらって帰るというのはあり得ない。ですが、一日何件も食べたり呑んだりできないから、レストランに行って水だけもらって帰って来ると、「この前あそこのお店にお世話になったから、行こうかな!」という流れが絶対にできると思ったわけです。

そうするとそれに参加してくれたお店は新しい、知らないお客さんに認知してもらえます。

認知だけではなく、実際にお店の中に入ってもらうことで関係性が生まれますし、お店の中の雰囲気、人の雰囲気を感じてもらえます。

普段、飲食店とお客さんの関係だとあまりコミュニケーションが生まれませんが、イベント(シャルソン)で立ち寄ると、新たなコミュニケーションが生まれます。

さらに、イベント後に再来店する、そこでまた新たなおミュニケーションが生まれると言った好循環が生まれます。

飲食店としては常連さんを作るきっかけにもなりますので、走る人だけでなく、飲食店側にもメリットがあるわけです。

ただ、1年に1回だけお店に行ってもらうことが趣旨ではなくて、それ以外の時にも行ってもらうことを大事にしています。あとはスタンプラリーでもない。それは街の発見には繋がらないので。

シャルソンにはこうしないといけないというルールがないので、主催者間で情報を共有しながら、いいものを取り入れながら、変化をしてきています。

日本の場合、東京で起きたものが地方に派生していくような流れができていますが、地方は別に東京を介して何かをする必要もありません。

なので、シャルソンに関してはご当地リレー(※2)という仕組みを作っていて、その土地の野菜やお菓子などを持っていったり、その土地に関係なくお互いが参加しあう仕組みを作っていたり、のぼりを次の開催地に送る時に、一緒に1品(その土地に関係のあるものなど)+メッセージを送るような仕組みになっています。

※2 日本語での当地という意味と英語のトーチ(聖火)という意味がある。

主催者同士のSNSグループもあるので、主催者同士が交流、情報共有する場にもなっています。

実際に体験してきた東京シャルソン

去る2016年2月28日(日)※東京マラソンと同じ日に5回目の東京シャルソンが開催されました。

受付時間は10時から16時の間であれば何時からでも参加可能。ゴールは17時半。その後18時から、参加者それぞれが見つけた東京の魅力をシェアするパーティをします。

筆者は自宅の目の前をランナーが通る東京マラソンの観戦を終え、15時前に受付会場であるPax Coworking(経堂)に到着。

シャルソンを楽しむ時間は僅か2時間半。つまり、10時に受付を済ませた参加者は7時間半も東京の魅力を発見することができ、給◯ポイントでの「補給」を堪能できるわけです。

そんなこんなでスタートした、東京シャルソン。経堂界隈は全くと言っていいほど土地勘がなく、名所をリサーチすること無く参加してしまった結果、ただただ身体が動く方へ動く方へと歩を進めていきます・・・。

世田谷の空気を感じながら走りながら、SNSで他の参加者の動向をチェックしていると、ある給◯ポイントが松陰神社前にあるとの情報をキャッチ!

※シャルソン参加者は参加者限定のFacebookグループで、訪れた(名)所、給◯ポイント、風景、出会った面白い人などをシェアしていきます。

筆者は4年間山口県で過ごした経緯もあり、萩の松陰神社には2度訪れる機会がありました。これはぜひとも行かねばならぬ!という思いで、一路松陰神社へ。

道中、招き猫の寺で有名な豪徳寺を偶然にも発見できたり、東京都内では珍しい路面電車(世田谷線)を始めて見る機会があったりと、同じ東京でも、普段訪れることの少ない地での発見は様々なものがありました。

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※目的の松陰神社にて

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※尊敬する吉田松陰先生の像

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※給◯ポイントとして紹介されていた、松陰神社から程近い、マルショウ アリクにて。

唯一訪れた給◯ポイント、「マルショウ アリク」。ちょっと写真が分かり辛いですが・・・。東急世田谷線、松陰神社前から程近い松陰神社商店街にお店を構える、オシャレなお店です。到着した頃はゴールの時間まで残り30分を切っていたため、おすすめの蒸し牡蠣を1つだけ注文。

もう少し時間があれば、お酒と一緒に東北・宮城の牡蠣を堪能したかった・・・。

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※18時からはパクチーハウス東京にてパーティー

子供から大人までシャルソンに集いし人達でパーティーが始まります。同じ体験をした人同士が共通の話題で繋がっていくわけです。

編集後記

今回、シャルソンについてお話を伺った佐谷恭氏は、共に第30回サハラマラソンに出場した縁で、再びお会いすることができました。

※他にも同じ時期にサハラマラソンに参加したランナーや、これからサハラマラソンに参加するランナーもシャルソンに多数参加。

今後は国内だけでなく、海外でのシャルソン開催(実際にプノンペンでの開催実績あり)も増やしていきたいとのこと。

筆者自身もシャルソンの「走ることを通じてまちを再発見し、人と人とが繋がるランニングイベント」というコンセプトに共感し、ランニングに少なからず関わる人間として、一度シャルソンを体験しておきたい!と思ったのが東京シャルソンに参加したきっかけです。

スポーツの魅力の1つは「人と人とが年齢や肩書に関係なく、自然に繋がることのできること」。

それを強く感じることができたのは、サハラマラソンでの経験が大きく影響しています。サハラマラソンでは学生や社会人、経営者が同じテントで生活します。歳の差も40近く離れているケースだってあるわけです。

普通であれば、学生と50代の経営者が7日間も同じテントで生活することは親戚でもない限りあり得ませんし、特に学生からしてみれば40個も歳の離れた人に対して、何を話して良いのかすらわからない・・・という場合がほとんどでしょう。

ですが、同じ体験(しかもインパクトのある)をし、一緒に困難を乗り越えることで、メンバー同士が自然と1つになっていくこと、年齢も肩書も関係なく、どうでもいいような話ができることは物凄く価値のあることだなと感じた次第です。

このメディアの中でも、単に速く走る、長く楽に走るといった「ノウハウ」だけではなく、例えば、「ランニングを通じた人との繋がり」「ランニング的戦略思考」など、少し違った視点からランニングを定義してみたり、ランニングを色んな切り口で楽しむことのできる情報をお届けしていきたいと思います。